経済・企業 セブン・ショック

同業の積極買収で急成長したクシュタール 高い投資効率を維持 児玉万里子

ガソリンスタンドを併設するコンビニを展開。社名はフランス語で「食料品」と「夜更かし」を組み合わせた(Bloomberg)
ガソリンスタンドを併設するコンビニを展開。社名はフランス語で「食料品」と「夜更かし」を組み合わせた(Bloomberg)

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)の買収提案で知られるようになったカナダのコンビニ大手は、投資効率に優れた買収を繰り返し規模を拡大させている。

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 カナダのアリマンタシォン・クシュタール(以下、クシュタール)は、コンビニエンスストアの運営会社だ。2024年4月期の売り上げが692億米ドル(約10.2兆円)に及ぶ、カナダ有数の巨大企業である。ただ、今年8月に日本のセブン&アイに対して買収を提案するまで、このフランス語の「食料品」と「夜更かし」を組み合わせた社名は日本ではほとんど知られていなかったはずだ。

 店舗は世界31カ国、1万6700店以上に達する。北米店が約6割、欧州店が約3割という構成だ。米国内の店舗数はセブン-イレブン(日本のセブン&アイの子会社が経営)に次いで第2位。同社のチェーンには、国際的に展開する「サークルK」、カナダ・ケベック州中心の「クシュタール」のほか、米国に「ホリデー」、欧州に「インゴ」などがある。本社はモントリオール郊外のケベック州ラバルにあり、株式はトロント証券取引所に上場している。

売り上げ成長率は年15%

 同社は1980年に現会長のアラン・ブシャール氏が最初の店をケベックに開店したのに始まる。その後同業買収により店舗網を拡大し、90年代後半にはカナダ国内トップのコンビニチェーンに成長。その後は国外へ進出し、さらに規模を拡大していった。売り上げは04年の42億ドルから24年4月期の692億ドルまで増えており、20年間の成長率は年率平均15%と非常に高い(図1)。

 コンビニの発祥の地である米国では日本と異なり、コンビニ店舗にはガソリンスタンドが併設されるのが普通であり、売り上げに占める燃料の割合が大きい。クシュタールでも、24年の総売り上げの74%がガソリンなどの燃料だ。これが同社の売り上げ規模が巨額に達している理由だろう。

 企業の成長戦略には、企業内部に蓄積した経営資源によって自力で成長を図るやり方と、他社の経営資源を取得して成長を図るやり方の二つの方法がある。クシュタールは後者の同業買収を積極的に進めるやり方で売り上げ成長を加速してきた。

 過去20年間の売り上げ成長の端緒は、03年12月の同業のサークルKを8億4000万ドルで買収したことだ。05年4月期のクシュタールの売り上げは前年から倍増したが、増加分のほとんどがサークルKの売り上げだった。

 その後も5年、6年おきに4回にわたって、同業の大型買収、あるいは複数企業の同時買収を進めてきた。

 まず、06年から07年にかけてシェルのガソリンスタンド施…

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週刊エコノミスト

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セブンショック 次の標的は18 日本企業よ!買収提案は起死回生のチャンスだ■荒木涼子20 セブンの判断 新時代を切り開いた特別委設置■松本大21 安すぎる買収提案 創業家に物言わず退任した鈴木敏文氏の責任は重大だ■鈴木孝之22 クシュタール解剖 同業を積極買収で急成長 高い投資効率を維持■児玉万里子 [目次を見る]

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