❻斬新デザインの独リリウム 1500機受注の英バーティカル 岩本学
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eVTOL機の開発は欧州でも活発に行われている。サプライチェーンには有力企業が並ぶ。
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2025年開催の大阪・関西万博における空飛ぶクルマの運航が、当初見込まれた商用運航から乗客が搭乗しないデモ飛行に変更となることが9月末、明らかになった。機体メーカー側の開発ペースや認証取得に向けたスケジュールを踏まえると、やむを得ない判断だったものと思われる。ただ、万博でeVTOL(垂直離着陸)機を飛ばす意義は失われていない。パリ五輪中のパリ市内での飛行が実現しなかった今、万博はeVTOL機が会場内を飛ぶ世界初のイベントであり、新しいモビリティーに対する日本の取り組みを世界に示す絶好の機会だ。
世界でも商業運航は25~26年にスタートし、その先数年間掛けて運航規模を拡大していく計画となっている。10月2日にはトヨタ自動車が米ジョビー・アビエーションに720億円の追加出資を行うことを発表した。万博での運航がどういう形で実現するにせよ、日本としてはeVTOL機の火を絶やすことなく、社会実装と産業創造に向けた歩みを進めていきたいところだ。
過去2回の連載では、米国の新興メーカー3社を紹介してきた。今回は欧州のeVTOL産業の中心的な存在である固定翼付きeVTOL機を開発する機体メーカー2社を紹介したい。
まずはドイツのリリウム・エア・モビリティだ。15年にミュンヘン工科大学出身の4人の若手エンジニアにより設立されたベンチャー企業で、ジョビーと同じく早い時期からeVTOL産業を開拓してきたパイオニアとされる。開発する機体「リリウム・ジェット」は競合の機体と外観が大きく異なり、「ダクテッドファン」という推進システムを搭載した独創的なデザインとなっている。合計で30個の小型のファンが前後の翼に埋め込まれており、10個のバッテリーユニットと16個の推進システムで稼働する。他のeVTOL機体と比べてプロペラの面積が小さく、ディスクローディングという値が低いため、ホバリング性能が低く、空中に浮いていられるのは数十秒といわれている。一方で、水平飛行時により高い効率性を発揮する特徴を有しており、優れた航続距離に強みがある。元々はパイロットを含め5人乗りで、航続距離300キロメートルの機体を開発していたが、事業化を目指す最新の機体では、航続距離を短くし、その搭乗人数を7人に増やしている。
都市間輸送を狙う
この未来的なデザインの機体を用いて狙う市場は都市間移動で、特に初期はビジネスジェットやヘリを日常的に利用するプレミアム層向けにビジネスを展開する戦略だ。これまでeVTOL機をエアタクシーとして活用することをUrban Air Mobility(UAM)と呼ぶと紹介したが、それに対して都市間航空輸送はRegional Air Mobility(RAM)と呼ばれる。リリウムは空の移動が地上のモビリティーに対して明確な優位性を発揮できるのはこのRAM市場であると考えている。
空港やヘリポートなど既存のインフラを活用しつつ、ある程度の距離を飛ぶことを想定した場合、ホバリングする時間はわずかでよく、それよりも水平飛行の効率性を追求した方が理にかなっている。更にリリウムは、前回紹介した米ベータ・テクノロジーズとは順番が逆だが、eVTOL機としてビジネス化が成功した暁には、eCTOL(通常離着陸)機を開発することを計画している。数百キロメートル圏内はeVTOL機で、そこから更に遠い距離にはeCTOL機を用いる想定で、この構想からもeVTOL機とeCTOL機は分かち難い関係にあることが分かる。
リリウムのサプライヤーには航空機産業の大手企業が名を連ねるが、日本からは東レとデンソーの2社が関与している。デンソーは、航空機大手の米ハネウェルと19年に連携し、航空機向けの電動推進システム開発を共同で行っていたところ、22年にリリウムのモーターに正式に採用されるに至った。ニデックもブラジル・エンブラエルとモーターを共同開発しているが、空の電動化をきっかけに自動車産業の主要企業が航空機産業に新たに参入している点は興味深い。
欧州域内でのビジネス化に向けても有力な提携先が並ぶ。運航では独ルフトハンザ、離着陸場開発ではスペインのフェロビアルや仏ADPグループなどの…
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週刊エコノミスト
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