インタビュー「顧客囲い込みとソフト主導でパナ再生へ」冨山和彦・パナソニックホールディングス社外取締役
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幾多の日本企業を再生させた経営コンサルタントで、パナソニックの社外取締役を務める冨山和彦氏に、同社再生への道筋を聞いた。(聞き手=浜田健太郎/稲留正英/村田晋一郎・編集部)
冨山和彦(とやま・かずひこ) 1960年生まれ。東京大学法学部卒業。在学中に司法試験合格。米スタンフォード大学経営学修士。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て2003年産業再生機構COO(最高執行責任者)に就任。07年同機構解散後に、経営共創基盤(IGPI)を設立。20年10月からパナソニックホールディングス社外取締役。著書に『コロナショック・サバイバル 日本経済復興計画』(文藝春秋)など。
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── パナソニックホールディングスの時価総額は、ソニーグループ、日立製作所に比べて大幅に低い。その理由をどう見るか。
■ソニーの出井伸之さん(元社長・会長、故人)が社長に就任した1995年当時、「デジタル・ドリーム・キッズに変貌しなければならない」と打ち上げたが、「この人はいったい何言っているのだろう」という受け止めが大半だった。30年近くを経たいま、ソニーはまさにデジタル技術で稼ぐ会社になっている。
日立は、2009年3月期に日本の製造業で最大の赤字(7873億円)を出して経営危機に陥った。川村隆さんが会長兼社長に就任し、その後、中西宏明氏を後継社長に抜てきして、2人は低収益事業からの撤退を断行した。そして、中西さんは後任社長の東原敏昭さん(現会長)と、「ルマーダ」というDXのプラットフォームの立ち上げを主導した。顧客をロックイン(囲い込み)するサービスにハード事業を収斂(しゅうれん)させるビジネスモデルの大転換を実行した。その結果として現在がある。
── 2社に比べ、パナソニックは大転換に遅れたと。
■創業者の松下幸之助さんの巨大な遺産を引き継いだので、電気機器の単品売り切り、大量生産、大量販売を軸にした事業モデルでここまでやってくることができた。ただ、そうしたビジネスモデルでは成長期待はない。先進国の企業が手掛けるビジネスモデルではなくなっており、このままでは成長しない、と株式市場から評価されている。
── B2C(消費者向け)の家電メーカーのイメージが強かったパナソニックだが、近年では車載用電池などB2B(企業向け)に注力している。
■B2CかB2Bかは重要ではない。顧客をロックインできるかどうかだ。ルマーダを通じて日立はそのビジネスモデルに移行した。顧客と「ともに稼ぎましょう」という形態だ。B2Cであれば、米IT大手のGAFAはユーザーをロックインしている。
もう一つ重要な変容の軸があって、「ハードウエア・ディファインド・ソフトウエア(ハードが定義するソフト)」から、「ソフトウエア・ディファインド・ハードウエア(ソフトが定義するハード)」へ移行することだ。少なくともサプライチェーン(供給網)の川下側でロックインしようとしたら、ソフトウエアは不可欠だ。
例えばテレビ。かつては、圧倒的にハードがソフトに対して優位性があった。カラーテレビの受像機ができてからカラー放送が始まったように。いまは、どのようなテレビのハードを作るのかは、ネットフリックスやアマゾン・プライムが事実上決めている。オーディオ機器もそ…
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週刊エコノミスト
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