ソニーは“感動を創る”ソフト企業 エンタメ売上7.3兆円に 麻倉怜士
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ゲーム、映画、音楽のコンテンツ制作のためにハードを開発する。ハードとソフトの「主客逆転」がソニーを復活させた。
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ソニーグループ(ソニー)の売り上げ、収益構造が激変した。もはや「エレクトロニクス(電機)のソニー」ではない。20世紀中に仕込んだ音楽、映画、ゲームの三つのエンターテインメント事業が連結売上高に占める割合は2012年度に26%だったが、23年度は55%に大幅増。23年度はエレキ事業の売上高2.4兆円に対してエンタメは7.3兆円、営業利益もエレキ1900億円に対してエンタメ7000億円と大きな開きがある。
20世紀にエレキで成長したソニーが、21世紀にソフト・コンテンツで稼ぐ企業に変貌したのは、これまで営々と「ハードとソフトの融合」を追求し続けたからだ。そもそも、1968年にCBS・ソニーレコードを創業、89年に米コロンビア・ピクチャーズを買収、94年にゲーム業界に参入する以前から、それはソニーの「通奏低音」として流れていた。創業者の井深大は77年に、「われわれの考えがハード一辺倒なら、明るい将来は望めない。ソフトを深く開拓することにより、世界中に入り込むことができる」と述べている。
20世紀の「融合」は、エレキを強化するためだった。ところが21世紀型のそれは、「ソフトのためのハード」に大逆転。主旋律は完全にソフトになった。なにしろソニーグルーブのパーパス(存在意義)は「クリエーティビティーとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」であり、エレキ事業を担うソニー株式会社のミッション(果たすべき使命)は「テクノロジーの力で未来のエンターテインメントをクリエーターと共創する」なのだ。テレビ、音響、カメラ、スマホというハードの牙城のET&S(エンターテインメント・テクノロジー&サービス)分野でも、いまや営業利益の8割以上がクリエーションを支える事業から来る。
支える最強の撮像素子
怒濤(どとう)のようなコンテンツシフトについて、吉田憲一郎会長は次のように明かす。「ソニーが強みを発揮できる部分は感動を創ること。18年の英EMIミュージック・パブリッシングの買収を起点に、6年間で約1.5兆円の投資を行い、コンテンツクリエーションを強化してきた」(24年度経営方針説明会)。具体的には以下の通りだ。
①コンテンツ制作環境の開発。映画製作において、素材音をミキシングするスタジオの音響環境をヘッドホンで再現し、リモートミキシング作業を可能にした「360 Virtual Mixing Environment」、撮影を時間と空間の制約から解放しディスプレー映像を背景に役者が演ずる「バーチャルプロダクション」、360度取り囲んだ多数のカメラで対象物を撮影、3Dデータを得て多彩に活用する「ボリュメトリック・キャプチャ」──など枚挙にいとまがない。
②リアルタイムな映像撮影、生成。「ソニーの強みは“リアルタイム”。ソニーが価値を生み出し、技術的にも貢献できる領域」と吉田氏は経営方針説明会で述べた。それを支えるのが世界最強のCMOSイメージセンサーだ。プロ用カメラからスマホに至るまで、コンテンツ制作を支える半導体として「今、その場」をリアルタイムに切り取れるCMOSセンサーに徹底的に注力。過去6年間で約1.5兆円を投資している。
一方、リアルタイムで映像を生成するCG(コンピューターグラフィックス)にも注力する。一例が、CGリハーサル環境の「トーチライト」。CGのバーチャル空間にてセットデザイン、道具配置、背…
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週刊エコノミスト
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