再エネの切り札「洋上風力」 活発化する商用化の動き 中村博子/闞思超
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再生可能エネルギー拡大の切り札とされる洋上風力発電。中でも「浮体式」を巡って、各企業の取り組みが活発化してきた。
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風力エネルギー分野の国際的な業界団体「世界風力会議」によると、世界の洋上風力発電設備の累積導入量(2023年末時点)は前年比17%増の75.2ギガワットとなり、洋上風力は再生可能エネルギーの主軸の一つに成長している。アジア地域が半分以上の40ギガワット超を占めるが、その大半は中国(38ギガワット)で、欧州全体(34ギガワット)を上回る勢いだ。
これに対し、日本の洋上風力発電導入量は、実証プロジェクトを含めて0.153ギガワットにとどまる(日本風力発電協会)。日本は周囲を海に囲まれているのになぜ洋上風力の導入が遅れているのか。
日本は地震や津波、台風などの自然災害が多いことや、沿岸漁業が盛んなため、漁業関係者などとの調整に時間がかかることなどが背景にある。また、日本の沿岸域は急に深くなる地形が多く、風車の基礎を海底に直接固定する「着床式」に適した50~60メートル以浅の水域が限られる事情もある。
一方、風車を支える基礎が波に流されないように浮かべる「浮体式」は、技術の確立とコストが課題となる。そこで政府は浮体式の普及を見据え、これまで「領海と内水」に限定していた風車の設置場所を、排他的経済水域(EEZ)に拡大する再エネ海域利用法改正案を今年3月に閣議決定し、通常国会に提出した。衆院は通過したが、参院は継続審議となっている(11月現在)。
日本は「着床式」に適した海域は限られているものの、領海とEEZを合わせた海域の面積は約447万平方キロメートルで、世界6位の海洋大国だ。EEZも含めると、洋上風力のポテンシャルは500~900ギガワットに達するとの試算もある。政府は、洋上風力について40年までに30~45ギガワットへ拡大することを目指している。再エネ海域利用法に基づき、21年から毎年1ギガワット以上の浮体式を含む洋上風力の入札を実施しており、今後導入が一層加速しそうだ。
風車は欧米中に依存
業界の動きも活発化している。水深が深いEEZでは、風車を含む浮体を「係留索」でつなぎとめ、台風など自然災害にかかわらず位置を保つ技術が必要となる。浮体式の本格的な商用化に向け、24年3月には、洋上風力のサプライチェーン(供給網)を担う関係企業で作る「浮体式洋上風力技術研究組合(FLOWRA)」が発足した。
こうした日本の動きにはるかに先行しているのが英国だ。英国政府は04年以降、領海を超える水域を「再エネ水域」(REZ)と位置づけ、風力発電開発事業者にライセンスを付与している。13年には洋上風力産業のサプライチェーンの構築に向け、官民合同による洋上風力産業委員会を立ち上げた。09年にはEEZを含む海洋空間計画(MSP)が導入されており、海洋政策の意思決定には幅広い市民の参加を義務づけている。
洋上風力発電システムは、風車、支持構造物、係留索(浮体式のみ)、送電システム(電力を陸上に送るための海底送電ケーブルや変電所など)…
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週刊エコノミスト
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