データセンターの9割が関東・関西 分散へ電源確保と通信遅延の壁 今村圭
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日本ではデータセンターが都市部に集中立地する。地震などの災害リスクもあり、地方の電源インフラを拡充して分散する必要がある。
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私たちの生活や仕事には、パソコンやスマートフォンは欠かせない。データセンター(DC)はオンライン会議や通話、メール、地図、SNS(ネット交流サービス)や、企業の事務システムなど、ありとあらゆる情報通信活動を支える「縁の下の力持ち」的な存在だったが、最近では生成AI(人工知能)の登場によってITインフラとしての重要性を認識され始めた。
DCの内部には、数十万台ものサーバーやネットワーク機器などが稼働している。また、サーバーなどから発生する熱を冷やすための空調機器や、停電時に備えた非常用発電機などの電源設備、機器・データを守るためのセキュリティー設備などが備えられ、24時間365日にわたって安定的なサービスを提供している。
枯渇し始めた適地
DCの主な役割や特徴をまとめた(表)。ここ数年、日本で新たに建設されているDCは外資系クラウドサービス事業者向けのものが多く、電力規模は1棟当たり30メガ~50メガワット以上だ。30メガワットを一般家庭(契約電力40アンペア)の電力に換算すると、7000軒以上に相当する。
例えば、1棟のDCの中に1台200ワットの電力を必要とするサーバーが10万台稼働していると、サーバーなどのIT機器の電力だけで20メガワットとなる。さらに空調機器などに必要な電力を加えると、DC全体でおよそ28メガワットの電力が必要になる計算だ。
なお、多くの場合、DC事業者は建物と空調機器などを管理し、クラウドサービス事業者などはIT機器を管理する「テナント」という関係であり、テナント側の消費電力が急増している。現在でも相当量の電力を必要としているが、生成AIサービスの登場で、今後はより多くの電力が必要とされている。
生成AIのサービス提供には、膨大な量のテキストや画像などさまざまなデータを「学習」させたモデルを構築する必要がある。米オープンAIの「チャットGPT」で例えれば、人間の質問に答えるベースとなるのが「学習用」のモデルで、その答えを作るのが「推論用」に当たる。
学習用モデルを作るには、一般的なサーバーに利用される中央演算処理装置(CPU)よりも、生成AIの処理に適している画像処理半導体(GPU)が利用される。こうした学習用モデルのためのDCも増えてきた。GPUを搭載したサーバーは従来型よりも数倍以上の電力を必要とし、今後さらに大きくなるといわれる。将来、生成AIが現在以上に日常的に利用されるようになると、さらに電力が必要になると考えられる。
電力問題に加え、日本のDCは立地の課題も抱える。現状、テナントの需要や通信環境などの理由から国内のDCの90%弱(面積ベース)が関東と関西に集中している(図)。
DCの建物自体は震度6強程度まで耐えうる設計となっているものが多いが、DC自体の被害は軽微だったとしても、周辺の電力、通信、道路など社会インフラに被害があると、DCの運用を継続することが困難となる恐れがある。そもそも、DCの建設に適当な広さと電力・通信インフラを備えた土地が、首都圏、近畿圏で枯渇し始めているという課題にも直面している。
DCの地方分散を進めるにはいくつかの課題を解決する必要がある。技術面の主な課題は、電力の確保と通信の遅延の短縮だ。電力の確保に関しては、地方には大容量の電力インフラが乏しいことに加え、2030年までに温室効果ガスの13年度比46%削減、50年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)実現の目標を国が掲げており、DCもできるだけ再生可能エネルギーなどの脱炭素電源を利用する必要がある。
NTT「オール光」構想
しかし、DCに必要な電力量を太陽光発電で賄おうとすると、現状の発電効率では広大な土地が必要となる。洋上風力発電は安定性に課題がある。再エネの電気をためる蓄電池の活用も、やはり膨大な量の蓄電池が必要となりコスト面でハードルがある。現状では電力使用が高まる時間帯に蓄電池から電力を融通する「ピークカット」など、部分的な活用にとどまりそうだ。
通信の遅延は、DCとエンドユーザー(最終消費者)とのネットワーク的な距離と相関する。現状のネットワークは東京や大阪を中心にして整備されているため、あくまでイメージであるが、例えば栃木県にあるDCから茨城県に住むエンドユーザーへデータを送る際にも東京を経由する可能性があり、ネットワーク的な…
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週刊エコノミスト
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