マスク氏とトランプ氏の「小さな政府」は同床異夢 先が読めない両者の蜜月 浅井優汰
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トランプ2.0では、「政府効率化省」トップのイーロン・マスク氏から目が離せない。
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トランプ米次期大統領は第2次政権(トランプ2.0)で「米国第一主義」を強化し、「小さな政府」の実現も目指すとみられる。けん引役として注目されるのが、実業家のイーロン・マスク氏だ。トランプ2.0に大きく左右される2025年の世界経済は、両者の「蜜月」にも翻弄(ほんろう)されそうだ。
小さな政府を考察する前に、トランプ氏が追求する米国第一主義とは何かを検証したい。トランプ2.0で、小さな政府は米国第一主義の実現を支える重要な柱と位置付けられているとみる。
米国第一主義とは、第二次世界大戦後の米国の繁栄を支えてきた自由貿易や国際協調を基盤とする秩序を転換するものだ。自由貿易が進む中、人件費上昇などの影響で、ラストベルト(さびついた工業地帯)を中心に米国の製造業は国際的な競争力を失い、中産階級の地位は低下した。米国が築いた国際秩序は、かつては米国の利益に貢献したが、現在ではその維持が米国の負担となっている。第2次政権は、1次政権以上に「米国の繁栄」を最優先するだろう。
米国第一主義を具現化する主な政策は、①追加関税による保護貿易、②脱炭素に向けた国際協調の後退と、化石燃料生産の規制緩和、③不法移民の抑制や強制送還──が挙げられる。中でも追加関税は、中産階級を守る政治的象徴としてトランプ氏の支持固めに貢献している。しかし、追加関税には米国のインフレ圧力を高め、景気を下押しするリスクも伴う。
三菱総研の試算では、関税引き上げ(対中60%、対メキシコ・カナダ25%、その他一律20%──の関税を想定)で米国の中長期的なGDPはマイナス1.7ポイント、日本も同0.3ポイントの下落が見込まれる。世界全体では同1.0ポイント下がる見通しだ。
「米国第一主義」加速
一方、小さな政府としては①官僚機構の権限縮小、②政府効率化による財政健全化と減税の実現、③規制緩和の推進──を目指す。市場を重視し、政府の介入を最小限に抑える考え方は、共和党が従来掲げる基本的な政策だ。
小さな政府は、米国第一主義を支える。トランプ氏は官僚機構の権限縮小を通じ、米国第一を確実に実現する体制の構築を進めるだろう。減税は物価や金利を押し上げ、景気を下押しする面もあるが、米国第一主義に基づく政策である関税や移民抑制による経済的悪影響を緩和する効果が期待される。
トランプ2.0下で小さな政府を主導するのがマスク氏だ。新設される「政府効率化省(DOGE=ドージ)」のトップに就任し、規制緩和などに取り組む。
ただ、電気自動車(EV)大手テスラを率いるマスク氏と、トランプ氏の立場には相反する部分が多い。トランプ氏が掲げる化石燃料生産の規制撤廃や、EV購入補助金・環境規制の廃止は、EV普及の基盤を揺…
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週刊エコノミスト
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