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交易条件分析で分かる円安の影響 佐藤清隆

 為替相場は長く円安局面が続く。これは日本経済にどのような影響を与えるのか。交易条件を分析すると実態が見えてくる。

研究開発進め輸出財を高く売る努力

 円安局面からなかなか抜け出せない。2021年初めの1ドル=102円台から22年10月には一時151円台まで急速かつ大幅に円安が進んだ。24年7月には160円台まで円安が進行したが、翌8月から9月に円は140円台まで増価し、10月後半から再び150円台の水準にある。

 このような円安水準は日本経済にどのような影響を及ぼしているのか。本稿では「円安は日本の交易条件にどのような影響を及ぼすのか」という観点から検討する。

21年以降に急速に悪化

 交易条件とは、輸出価格を輸入価格で除した値と定義される。この値は1単位の輸出を行うことで何単位の輸入が可能となるかを示しており、価格面から円安の影響を捉えることができる。

 図は日本の交易条件を実線の折れ線グラフで示している。輸出価格と輸入価格は、日本銀行が公表する月次の輸出物価指数と輸入物価指数(いずれも円ベース)を用いており、基準年は2020年(=100)である。輸出価格を輸入価格で除した値に100を乗じ、さらに100を差し引くことで、20年の交易条件の平均値がゼロになるように図を作成している。

 また、交易条件を左右する輸出価格と輸入価格の変動要因を、対前年同月比変化率として棒グラフで示している。輸出価格の変動要因は、輸出価格それ自体の変化(輸出価格要因)と為替レートの変動に起因する輸出価格の変化(為替要因)の二つに分けられる。

 日銀は輸出物価指数と輸入物価指数の両方とも、円ベースと契約通貨ベースの2種類の指数を公表している。輸出を例として説明すると、日銀はどの通貨建てで輸出契約がなされているかの情報を収集し、契約通貨ベースの輸出物価指数を作成している。契約通貨ベースの輸出物価は、企業が設定した輸出価格の動きを表す。これを円換算したものが円ベースの輸出物価であり、円高の時に為替差損を、円安の時に為替差益を反映した動きをする。したがって、図の「輸出価格要因」は契約通貨ベースの輸出物価の動きを、「為替要因(輸出)」は円ベースと契約通貨ベースの差を示している。

 輸入価格の変動要因も同様に作成しているが、輸入価格自体の変化を「原燃料価格要因」と「その他輸入価格要因」に分けている。前者は「石油・石炭・天然ガス」部門の輸入物価指数から作成しており、原油価格に代表される資源エネルギー価格の変動を捉えている。また、図の点線の折れ線グラフが示す「ネットの為替要因」は、「為替要因(輸出)」から「為替要因(輸入)」を差し引いた値である。

 改めて図の交易条件の動きをみてみよう。21年から交易条件は急速に低下し、22年9月にマイナス30.2に達している。これはリーマン・ショック直前の08年8月のマイナス20.8を大きく上回る交易条件の悪化である。両時期とも原燃料価格要因の大幅なマイナスによって交易条件が悪化した。また、22年に入ってからネットの為替要因も大幅なマイナスとなり、22年9月にマイナス9.89まで低下している。ネットの為替要因がこれほど大幅なマイナスとなったのは06年以降初めてである。

 21年以降でもう一つ注目すべきは、輸出価格要因の大幅なプラスである。06年以降、円安局面で輸出価格要因が…

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週刊エコノミスト

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