政権迷走の英独仏 “盟主不在”で景気失速懸念の欧州 伊藤さゆり
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盟主とされてきた英独仏だが、政治・経済でそれぞれ不安を抱えており、2025年の欧州は「地盤沈下」が避けられない見通しになっている。
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好調な米国経済の一方、暗雲が漂うのが欧州経済だ。フランスは首相不在の政治空白が続くなど政局の混乱が続き、英国では大型予算を巡る国民の不満がくすぶる。ドイツでは連立政権が崩壊した。欧州経済の「けん引役」は見当たらず、第2次トランプ政権発足を前に存在感の低下が懸念される。
2025年の欧州経済は、潜在成長率並みか、それをやや下回るペースでの拡大が見込まれる。経済協力開発機構(OECD)が24年12月に公表した「経済見通し」によると、25年の実質GDP(国内総生産)についてユーロ圏は1.3%、英国は1.7%としたが、国際機関などの予測はおおむね1%台前半から半ばに集中する。
インフレ率は、22年秋のピーク時には2桁に達したが、24年は中銀の物価安定目標の2%近辺で推移し、25年も物価の安定に向けたプロセスが続くとみられる。欧州中央銀行(ECB)は24年6月から、イングランド銀行(BOE)は同年8月に利下げを開始したが、25年も段階的な利下げの継続が見込まれている。ただ主要3カ国とも政治経済の混迷が三者三様で続き、経済と物価への影響が見通しにくい。
仏は新内閣スタート
不透明感がピークに達しているのがフランスだ。
欧州主要3カ国の実質GDPを22年、つまりコロナ禍の影響が一巡する一方でロシアのウクライナ侵攻の影響が出始めた時期から比較すると、成長が止まったドイツや2四半期連続のマイナス成長を経験した英国に比べて、フランスはおおむね堅調に推移した(図)。
24年7~9月期もパリ五輪の効果で成長が加速したが、9月以降は実質GDPと連動性が高い総合PMI(購買担当者景気指数)は3カ月連続で活動の拡大と縮小の分かれ目となる「50」を下回る水準で悪化しており、10~12月期の失速が予想される。
マクロン大統領による下院解散を受け、24年6、7月に実施された総選挙では、左派連合、マクロン大統領率いる中道連合、極右の国民連合のいずれも過半数を獲得できなかった。マクロン大統領が、右派・共和党出身のバルニエ氏を首相に指名したのは同9月。2カ月の「政治空白」の末にやっと内閣が発足したものの、24年12月4日の内閣不信任案の可決で総辞職に追い込まれた。
マクロン大統領は翌5日の演説で、27年5月までの自分の任期を全うする方針を強調した。内閣不信任案の可決で25年予算案が廃案になったことを受け、24年予算を当面適用する特別法案を24年中に議会に提出すると表明。24年12月13日には、与党連合の一角を占める中道政党「民主運動」のバイル党首を指名した。25年初めにも、新内閣が予算案の再編成を進める。
しかし政治のムードを変えるのは難しそうだ。下院選挙は前回選挙から1年後となる25年7月まで実施できず、議会が割れた状態は続く。
調査会社オドクサとバックボーンコンサルティングの世論調査(不信任案採決後の12月4、5日実施)…
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週刊エコノミスト
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