トランプ2.0が低所得支持層の期待を裏切ってしまう構造的理由 安井明彦
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次期トランプ政権は「小さな政府」目指すが、拡張的な財政運営となりそうだ。
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トランプ氏の公約は、米国の債務残高を上昇させると思われる。米議会の超党派組織「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は、トランプ氏の公約が実現した場合には、2024年度に国内総生産(GDP)比で98%だった米国の債務残高は、35年度には同140%を超えると予測している。
債務残高の上昇は金利の上昇圧力になるが、注意する必要があるのは、公約が実現するタイミングだ。トランプ氏の公約は、拡張的な財政につながる政策ばかりではなく、緊縮的な政策が先行すれば、財政を通じた金利への上昇圧力が高まる時期は後ずれするだろう。
格下げリスク
拡張的な財政となるのは、大型の減税が公約されているからだ。CRFBによれば、トランプ氏が提案する減税は、10年間の累計で9兆ドル(1350兆円)を超える。約6割は25年末に期限切れとなる個人所得税減税などの延長・拡充で、税制が変更されるのは26年からだ。25年に影響が出るとすれば、残業代や年金、チップの非課税化など、その他の減税が早期に実行された場合だ。
一方で、緊縮的な財政につながるのが、関税の引き上げだ。CRFBは、10年間で2.7兆ドルの税収増を見込んでいる。議会での立法が必要な減税と違い、関税は大統領権限だけで引き上げられる。減税より早期に実施され、緊縮的な財政が先行する展開もあり得よう。
拡張財政のタイミングにかかわらず、トランプ氏の公約を総合すれば、現状の想定よりも財政赤字が増加し、米国の債務が膨らむことに変わりはない。24年9月に米格付け大手のムーディーズ・レーティングスは、債務の増加に歯止めがかからない場合、米国債の格付けを最上位格の「Aaa」から引き下げる可能性があると警告している。
第2次トランプ政権では、米財政のリスクの軸足が、「決められない政治」による不透明性から、「決められる政治」による持続可能性の低下に移りそうだ。大統領選挙と同時に行われた議会選挙で、トランプ氏と同じ共和党が上下両院の多数派を確保したからだ。
米国では、党派対立による「決められない政治」が、財政運営に不透明性をもたらしてきた。典型が債務上限の引き上げを巡る混乱で、11年と23年には大手格付け機関が米国債を格下げする引き金となった。
第2次トランプ政権でも25年半ばごろには、債務上限の引き上げが必要となる。しかし、議会で多数派を握る共和党が、トランプ氏の足を引っ張る理由は見つけにくい。格下げとなった過去2回の混乱は、いずれも民主党の大統領に、下院の多数派だった共和党が反発する構図だったからだ。
侮れないマスク氏
むしろ、議会の多数派を共和党が掌握したために、トランプ氏の公約が実現し、拡張的な財政運営となる確度が高まった。特に拡張財政の主因…
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週刊エコノミスト
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