愛弟子が語る石川経夫「先生は厳しい表情で『人間には格などないんですよ』」玄田有史・東京大学社会科学研究所教授
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大学や大学院で同期の岩井克人氏、奥野正寛氏、橘木俊詔氏。先輩の八田達夫氏。後輩の吉川洋氏。愛弟子の玄田有史氏。6人それぞれが経済学者として、また、一人の人間としての石川経夫を熱く語る。(聞き手=佐々木実・ジャーナリスト/浜條元保・編集部)
玄田有史(げんだ・ゆうじ) 1964年生まれ。88年東京大学経済学部卒、92年東京大学大学院経済学研究科博士課程退学。学習院大学経済学部教授などを経て、2007年より現職。『ジョブ・クリエイション』で04年度エコノミスト賞受賞。
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東大経済学部から大学院への進学を翌月に控えていたある日、学部ゼミの指導教官だった石川経夫先生にお昼をごちそうになった。そのとき、こんな言葉を先生からいただいた。
「同じような能力と意欲を持つ人々のあいだで、なぜ経済的に恵まれる人とそうでない人が生まれるのか。その実体を把握し、原因を解明することが、経済学を勉強する意味です」
この言葉は、経済学者・石川経夫の生涯の研究テーマだった「格差」についての最もわかりやすい説明でもあった。
私が大学院に進学した1988年はバブル経済の絶頂期で、日本独自の経済システムがいかに優れているかが議論される風潮にあった。『所得と富』は結果的に石川先生の「一生一作」となった著作だが、私は大学院入学後、先生がこの本を構想し、執筆する過程を間近で垣間見ることができた。
草稿を拝読し、理解が難しい箇所についてずいぶん質問したが、先生はいつも懇切丁寧に説明してくれた。やり取りを通して、日本の経済システムにも二重構造などの問題があることがわかった。
まだ格差が深刻な社会問題になる以前に、先生は日本の所得と富に関する緻密な研究を積み重ねていた。いまだ注目を集めていない深刻な社会問題を見いだし、なぜそのような事態が起こるのかを説明する理論を構築する。その理論が妥当か…
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週刊エコノミスト
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