大川原化工機事件で捜査の違法性を証言した警部補が3人に 粟野仁雄
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警視庁部内でも「無理筋」と認識されながら、立件へと突き進んだ大川原化工機事件。東京都や国に賠償を求めた訴訟の控訴審判決は5月28日に予定される。
冤罪事件の損賠訴訟控訴審 5月28日に判決予定
「正直に話していただき、ありがたい」──。
昨年10月9日、閉廷後の記者会見でそう語ったのは精密機械メーカー、大川原化工機(横浜市)の大川原正明社長だ。感謝を伝えた相手は、この直前まで東京高裁の法廷で証人尋問を受けていた警視庁の夫馬正浩警部補。かつて同社や大川原氏の捜査を担当し、今も同庁に所属する現職警察官だ。「警視庁公安部の中でも悪いことは悪い、おかしいことはおかしいと言える人を大事にしないといけない」と大川原氏は述べた。
大川原化工機事件──。「警視庁が通そうとした無理筋の論理」と大川原氏が形容した事件の構図はどんなものだったのか。経緯を振り返っておこう。
2018年10月、警視庁公安部の捜査員は同社の本社や大川原氏ら幹部の自宅を家宅捜索した。容疑は同社が経済産業相の許可を受けずに「兵器に転用できる形で噴霧乾燥機を中国に輸出した」というもの。外国為替及び外国貿易法に違反する疑いだった。その後、大川原氏ら同社役職員は延べ100回以上、公安部の取り調べを受けた。
公安部は20年3月、同社が噴霧乾燥機を中国にあるドイツ企業の子会社に不正輸出した容疑で、大川原氏ら3人を逮捕。同月、東京地検は3人を起訴した。東京拘置所に勾留された3人のうち、相嶋静夫顧問(当時)は体調を崩し、勾留執行の停止後にがんの治療を受けたが、21年2月に亡くなった。
それから事件は異様な展開を見せる。初公判予定日の4日前となる同年7月30日、東京地検は突然、起訴を取り消した。捜査機関が3人を犯罪者扱いした冤罪(えんざい)事件だったことが世間に知られた。
「不正輸出」の論理
同社、存命の2人、相嶋氏の遺族は同年9月、国と東…
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週刊エコノミスト
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