税務調査で活用進むAIの本当の脅威 泉絢也
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所得税の税務調査でAI(人工知能)を活用した結果、申告漏れの金額や追徴税額が過去最高を記録した。ただ、AIによる調査先の選定は、プライバシーの確保などに課題も多い。
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国税庁は昨年11月、所得税に関する2023事務年度(22年7月〜23年6月)の税務調査の結果を公表した。国税調査官が納税者の自宅や事務所を訪問する「実地調査」はコロナ禍の影響で20年度に落ち込んだ後、増加に転じ、23年度には20年度比2倍の4万7528件に達した。
文書や電話による「簡易な接触」を含め、調査で判明した申告漏れ所得金額は9964億円、追徴税額は1398億円で、いずれも最高額を記録した。国税庁はその理由を「調査選定にAIを活用するなど効率的に調査を行った結果」とし、AI(人工知能)を活用した成果を強調している。
判定式を自動で導出か
調査選定とは、多数いる納税者の中から、適正に申告をしていないと予測される調査優先度の高い人を割り出す作業である。国税庁は従来、不正取引や申告漏れの兆候などに基づいて、調査官の経験や勘を頼りに選定する「人による選定」と情報システムの分析を通じた「機械選定」を併用していた。
国税庁はまた、17年以降はAIや情報通信技術の活用をうたっており、①納税者の利便性向上、②課税・徴収の効率化・高度化、③事業者のデジタル化促進──からなる3本柱で進めている。23年公表の文書では、AIを活用して幅広いデータを分析し、申告漏れの可能性が高い納税者を判定▽分析結果を活用し、効率的に調査・行政指導▽調査の必要度が高い納税者にはより深く調査──といった「課税・徴収の効率化・高度化」に取り組むと宣言した(図)。
国税庁はAIの詳細を明らかにしていないが、次のようなものと推察される。申告書や過去の税務調査のデータを使い、「納税者のどんな要素に着目すれば申告漏れ…
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週刊エコノミスト
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