週刊エコノミスト Onlineワイドインタビュー問答有用

未知なる傑作の案内人=矢田部吉彦 東京国際映画祭プログラミング・ディレクター/765

    「アート系の映画を見るのがしんどくなったら、シネコンでハリウッド大作を見ます。映画の疲れは映画で癒します」(撮影=中村琢磨)
    「アート系の映画を見るのがしんどくなったら、シネコンでハリウッド大作を見ます。映画の疲れは映画で癒します」(撮影=中村琢磨)

     誰でも楽しめる娯楽作から、深い問いを突きつける作品まで、幅広いラインアップが特徴の東京国際映画祭。その作品選定は、矢田部吉彦さんの腕にすべてかかっている。今年は果たして、どんなラインアップが待っているのか──。

    (聞き手=北條一浩・編集部)

    矢田部 今年で第32回を迎えました。オープニングとして第1作公開から50年で、シリーズ50作目にあたる「男はつらいよ お帰り 寅さん」を上映します。世界の映画の秋の新作を集めてグランプリを競う「コンペティション部門」をメインとして、「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」など多くの部門でおよそ200作品を集めています。

    矢田部 国内外から集まるコアな映画ファンはもちろんのこと、普段はそれほど映画を見ない人、高齢者から子どもまで、どんな人が来ても必ず見たい映画があり、期間中あれこれハシゴしたくなる、そういうラインアップを目指しています。

    矢田部 大林監督の最新作「海辺の映画館─キネマの玉手箱」は、20年ぶりにふるさとの広島県尾道市で撮影された大注目作です。「映画は戦争を止められるのか?」という問いの下、監督の圧倒的なメッセージをぜひキャッチしてほしい。そして「野ゆき山ゆき海べゆき」「さびしんぼう」などの名作を、わざわざフィルム上映します。体調に配慮しながらですが、大林監督本人もお迎えする予定です。とても貴重な機会になると思います。

    矢田部 実は全作品の上映スケジュールは9月最終週に決まったばかりで、本当にギリギリまでスケジュールを確定できませんでした。ラインアップ自体にも言えることで、国際映画祭というのは、ここではじめてお披露目して、コンペに出て、受賞して、1年かけて各国で上映される映画が数多く出品されます。新しい作品を持ってくるために、ギリギリまで交渉が必要です。

    矢田部 映画は時間芸術。どんなに集中して見ていようと、90分の映画はキッチリ90分かかります。それに、ひたすらメールを書き続ける期間も作らなくてはなりません。選ぶということは、同時に「選ばない」ことを意味します。メールで結果を知らせますが、ダメ出しにいかに魂を込めるか。これは映画の未来に関わります。特に若手の監督には、「残念だったけれど、あそこはすごく良かった。次回作をぜひ見たい」と自分の言葉で伝えることがものすごく大事です。

    矢田部 年明けから秋まで、ひたすら情報収集をし、気になる作品は取り寄せて実際に見て、会うべきタイミングで監督にも会い、出品交渉します。公募作もあり、トータルで1800もの映画が選考の対象になります。さすがに一人ですべて見ることは無理なので、チーム編成をして臨みます。ただ、上映作品は最後は私一人で決断します。

     むろん、スタッフと何度も討論しますが、多数決は平均的な結果になるだけで、映画祭の個性を消すことにしかならないと考えています。

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