天国と地獄? 竹宮惠子と萩尾望都でこれだけ違う「大泉時代」の記憶=荻上チキ(読書日記)
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読書日記 一人は躍動、一人には傷 同じ時間の二つの記憶=荻上チキ
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漫画読みとして、「読者のつらさ」を共有してほしいという友人に薦められ、竹宮惠子『少年の名はジルベール』(小学館文庫、770円)と萩尾望都『一度きりの大泉の話』(河出書房新社、1980円)を一気読みしてしまう。つらい。
萩尾と竹宮が2年ほど同居していた東京・大泉の借家には、多くの漫画関係者が集まっていた。多くの作家の、躍動感ある日常と切磋琢磨(せっさたくま)が見事に活写され、読み応えがすごい。竹宮の優れた青春群像回顧録を読めば、「大泉サロン」を「少女漫画家たちのトキワ荘」と呼び、独自のドラマとして映像化したくなる作家たちの気持ちはよくわかる。
竹宮本の反響に対する「一度きりの」応答として語られた萩尾本からは、竹宮本とは異なる視点が語られる。才能たちが集まり、活発な交流が行われていたことは間違いないが、萩尾にとってはその記憶は、意識的に封印してきた傷であった。そして「大泉の話を映像化したい」「竹宮さんとの対談をお願いしたい」といった依頼は、萩尾にとって、トラウマをこじ開けようとするような暴力でさえあった。詳しい理由はその目で確認してほし…
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週刊エコノミスト
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