米国が迎える不確実性の秋 緩和縮小開始は2022年1月が有力だ=鈴木敏之
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金融政策 米国が迎える不確実性の秋 緩和縮小開始は22年1月が有力=鈴木敏之
1・9兆ドル(約200兆円)の大型財政発動と、ワクチン接種の進捗(しんちょく)で、米国経済は春先に強い回復をみた。また、インフレ率が想定以上に高まったことで、危機対応の強い金融緩和の見直しがなされ、正常化が動き出している。2022年に量的緩和効果のある資産購入規模の削減(テーパリング)が行われ、23年に利上げがされるという見方が浮上している。この道筋を見込むが、秋にかけて不確実性要因が多く、正常化への道のりは平たんではなさそうだ。
21年第1四半期(1~3月)から第2四半期(4~6月)にかけて成長の加速があったが、それは米国経済が、アメリカ救済計画(ARP)の大型財政発動と、ワクチン接種の進捗で社会経済活動再開が動き出したことが重なったことによる。一時的な支出である財政発動の効果は薄れてくる。ニューヨーク連銀が週次で出している経済の強弱を示す週次経済指標(WEI)は、ここへきて低下の傾向を見せている(図1)。それでも、潜在成長率を上回る成長は持続しそうで、議会予算局(CBO)のみる潜在GDP(国内総生産)は、年内にも解消が見込まれる。
22年2月に到来の議長任期
その米国経済で想定外の困惑をもたらしているのが、インフレ率である。昨年の落ち込みの影響で前年同月比が一時的に高まることは、広く認知されていた。ところが、前年の落ち込みとは関係のない前月比で、4月の数字が跳ね上がってしまった。需要は、大規模財政発動と社会経済活動の再開で一気に高まるが、供給側が対応しきれなかった。時間が経過すれば、供給の対応が進み、インフレ率は下がるという見方が現実に確認されるまで、緊張が続きそうだ。
しかし、この点については楽観できそうである。食品・エネルギーを除いたPCE(個人消費支出)価格コア指数の上昇率は、5月が0・5%で、4月の0・7%より低下した(図2)。価格変動の激しい項目を除いたPCE刈り込み指数も上昇率は2%に達していない。また、アトランタ連銀が発表する「賃金トラッカー」の数字では、賃金上昇率は下がっており、最終段階でインフレが抑制されている状態は保たれそうである。
大きな流れは、インフレ率の上昇は一時的で、春先の勢いはなくなるものの、しっかりした経済成長が続くという見方ができる。しかし、秋にかけて不確実性を高めそうな動きが多い。
(1)米国ではコロナの収束が楽観されているが、ワクチン接種は鈍ってい…
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週刊エコノミスト
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