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経済・企業 コロナと経済学者

今こそ宇沢の社会的共通資本=宮川努

インタビュー 宮川努(学習院大学教授)

無形資産の重要性は宇沢先生が唱えた社会的共通資本との関連で明示できる

 コロナ後の日本の課題は、世界的数理経済学者が唱えた概念の実践と、その門下生は訴える。

(聞き手=佐々木実・ジャーナリスト)

──「無形資産」とは、どのような資産か。

■機械や設備などの実物資本を企業が購入すると、長く生産に寄与するから「投資」となる。長い間、研究開発は「投資」とみなされなかったが、研究開発で蓄積された知識も生産に寄与する。こうした生産に寄与する「見えない資産」を捉え直す研究が欧米を中心に活発になっている。IT(情報通信)革命後、ソフトウエアなどの無形資産の重要性が飛躍的に高まったからだ。無形資産は、(1)情報化資産(ソフトウエア、データベースなど)、(2)革新的資産(研究開発など)、(3)経済的競争力(ブランド資産、人材投資など)に分類できるが、デジタル資本主義ではこうした「見えない資産」への投資が成長のカギを握る。重要なのは無形資産を計測することだ。

 無形資産の概念は、狭い順に(1)「会計上の無形資産」、(2)「GDP(国内総生産)統計上の無形資産」、(3)「広義の無形資産」があり、(2)の「国民経済計算」で計上される無形資産投資は31兆円(2019年)で、設備投資全体(住宅投資は除く)の25・4%。(2)にブランド、企業特殊的人的資本などを加えたものが(3)だが、日本の広義の無形資産投資は54兆円(15年)で、1995年からの20年間で平均すると年率1%の伸びとなる。

際立つ人材投資の低さ

── 国際比較で何がわかるか。

■日本は人材投資の低さが際立っている(図)。この20年間の「企業特殊的人的資本形成」を比較すると、主要先進国では日本と英国だけが「構造的要因」を伴って低下している。英国は08年のリーマン・ショックで金融部門のシェアが激減した影響だが、日本の場合、金融危機を経て非正規労働者が急増したことが大きな要因だ。企業が非正規雇用に対して研修費を節約しているわけだ。コロナ禍で非正規労働者の解雇や休業が増えると、正規労働者とのスキルの差は一層広がる。コロナ後まで尾を引く深刻な問題だ。

──「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」を含めれば、日本の人材投資は増えるのでは?

■増えるのは確かだが、留意が必要だ。というのも、日本の機械や設備は古くなっている。設備の年齢がバブル崩壊後、10年ほど上がっている。米国や中国ではどんどん新型ロボットに投資しているが、古いロボットの技術をOJTで習得しても、国際的な意味でスキルが上昇するとは限らない。

 たとえば、新型コロナを治療するためのECMO(エクモ)(人工心肺装置)は当初、操作できる医療従事者が限られていた。研修で技術を習得した人が操作して初めてECMOは価値を帯びる。つまり、研究開発やソフトウエア、人…

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