米国経済は1984年来の高成長で絶好調、インフレ動向に要注意=井上肇
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米国経済 1984年以来の6.3%成長も 人手や部材不足が供給制約に=井上肇
今年後半の米国経済は、新型コロナウイルスのワクチン普及や経済対策の効果、雇用環境の改善などを追い風に、個人消費がけん引役となり、高めの成長ペースが続く見通しだ。この結果、2021年の実質GDP(国内総生産)成長率は6・3%と、1984年(7・2%)以来の高成長になると予想する。
ただ、需要回復が続く一方で、労働力確保や部品・原材料の調達などで供給制約に直面しており、その結果、インフレ懸念が表面化しつつある。今年下半期の米国経済は、こうした供給制約をどう解消していくかが、大きな鍵となりそうだ。
米国の労働市場では、すでに企業側の需要に労働力の供給が追い付かない状況にある。企業の採用意欲を示す求人数が過去最高となる一方で、実際の採用数は伸び悩んでいる。労働供給の回復を阻害する要因は、新型コロナの感染を警戒した外出の手控えや家庭での育児負担などが続いていることが指摘できる。生産年齢人口に占める労働力人口の割合を示す労働参加率を年齢・性別でみると、高齢層の男女や子育て世代の女性などの回復が遅れている。
もう一つの要因は、コロナ禍の経済対策として実施されてきた失業保険給付の加算措置が、就労のインセンティブを低下させている可能性があることだ。実際、ニューヨーク連邦準備銀行の調査では、手厚い失業保険給付により、中低所得層の「留保賃金」、すなわち労働者がそれ以上であれば就職するという賃金水準が大きく上昇している(図1)。
インフレはピークアウト
今秋には労働供給の制約が緩和に向かい、労働需要が充足されることで、雇用は高めの伸びが続くと予想される。ワクチン接種や学校再開が進んでいるため、感染や育児問題で就労を見送ってきた人々が労働市場に復帰することが見込まれる。また、6月から7月にかけて、26州で失業保険給付の加算措置の前倒しでの終了が進んでおり、9月には残りの州でも終了が見込まれている。これにより、就労しないと生活に困る人々などが就職活動を積極化させることが予想される。
こうした雇用情勢の改善に加え、コロナ禍での消費抑制や政策支援で積み上がった家計の貯蓄が取り崩されることで、個人消費は堅調な推移を続ける見通しだ。日本総合研究所では、コロナ禍で積み上がった貯蓄の1割が使われるだけでも、米国の個人消費統計を2%程度押し上げると試算している。個人消費回復のけん引役は、巣ごもり需要に支えられた財から、外出機会増加の恩恵を受けやすい娯楽・宿泊・外食などのサービス産業分野にシフトしていくものと思われる。
物価動向に…
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週刊エコノミスト
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