欧州経済は行動制限緩和で景気が本格回復、金融緩和策見直しの動きも=土田陽介
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欧州経済 コロナ安全証明書を発行 行動制限緩和で景気回復へ=土田陽介
欧州連合(EU)は7月1日から、「デジタルCOVID証明書」の運用を開始した。これはQRコードを通じて、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種歴だけでなく、PCR検査の陰性結果や新型コロナからの回復歴も証明するものだ。証明書保有者には、EU域内の移動の自由が許される。
世界保健機関(WHO)はこうした「ワクチンパスポート」の発行については慎重な立場だ。だが、EUがその発行を急いだ理由は、夏季のバカンスにある。観光産業はすそ野が広く、雇用吸収力も高い。地中海沿岸諸国の経済を考えた場合、観光産業の正常化は最優先課題のうちの一つ。ワクチンパスポートの発行で正常化を促したいという意図がある。それに移動の自由は、EU単一市場にとって極めて重要な要素であるため、その正常化は政治的な意味合いも大きい。
こうした移動の自由の正常化に代表される行動制限の緩和がどれだけ進むかが、今年下半期のEU経済の鍵を握っているといってよいだろう。感染の再拡大があっても重症者が限定的で、医療崩壊が懸念されなければ、行動制限の緩和は着実に進み、それが内需を刺激して下期の景気を押し上げることになる。また年末にかけて実施される復興基金からの資金配分も、EU景気の追い風になるはずだ。さらに足元で急速に進むEV(電気自動車)シフトの流れも、生産面からEU景気を押し上げると期待される。
独政局流動化も
欧州中央銀行(ECB)の金融政策については、2022年3月を期限とするパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の行方に注目が集まる。EUの景気回復の加速が見込まれる中で、PEPPに関しても出口戦略が意識されるところだ。足元では、米連邦準備制度理事会(FRB)が年末にも資産購入の段階的な減額(テーパリング)に着手するとの観測の高まりを受けて、懸念材料だったユーロ高も一服している。FRBの動きを見据えつつ、ECBもテーパリングのタイミングを模索することになる。金融市場の安定に配慮して、PEPPの期間をあえて延長し、テーパリングを図るシナリオも考えられよう。
政治面では、9月26日にドイツで行われる総選挙に注目が集まる。与党キリスト教民主同盟(CDU)を率いるメルケル首相は、この総選挙で引退する予定で、ラシェット新党首が後継の有力首相候補となっている。一方、長年の連立のパートナーであった社会民主党(SPD)は党勢の弱体化が著しく、代わって環境政党である「同盟90/緑の党」が、第2党に躍進する見通しだ。とはいえ、CDUと「同盟90/緑の党」は主張の隔たりが大きく、国策プロジェクトであるロシアとのガスパイプライン「ノルドストリーム2」を巡る対立はその端的な例となっている。そのため組閣協議は難航すると予想され、こうしたドイツの政局流動化が、欧州の金…
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週刊エコノミスト
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