経済・企業 EV世界戦
主戦場の欧州 ブランド戦略の勝ちパターン狙う「ステランティス」の事業スピード=桃田健史
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欧州で急加速するEV(電気自動車)シフトの中、ダークホースとなりそうなのが、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とフランス大手のグループPSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)が2021年1月に合併して誕生したステランティスだ。
イタリアのアバルトやアルファロメオ、フィアット、フランスのプジョーやシトロエンなど14ブランドによる自動車連合体である。
ステランティスのEVシフトの特徴は、ESG(環境・社会・企業統治)投資を明確な出口戦略とした、技術優先ではなくブランド戦略優先によるスピード感を持った経営手法にある。
EVはこれまで、ガソリン車やディーゼル車と比べて車体のコストが高く、また公的な充電設備などインフラのコストがかかり、多少の量産効果を生んでも基本的に利幅の少ないビジネスと思われてきた。しかし、ESG投資の本格化によって、EVが環境対応の企業活動として株価など企業の価値を引き上げることとなり、自動車メーカーにとってはそれまでとまったく違うタイプの経営戦略が必要となってきた。(図の拡大はこちら)
こうした状況で各社はEV事業化をいち早く進めるため、多くの場合は1対1の企業間パートナーシップ、または3社以上でのアライアンスを組むことで、EVシフトに対する事業の選択と集中を進めてきた。
一方、ステランティスは大衆車から高級車に至るまでの多様なブランドを自社で所有しながら、技術的にはスモール、ミディアム、ラージ、そしてピックアップトラックや大型SUV(スポーツタイプ多目的車)用のフレームなど、四つのプラットフォームをブランドごとに使い分ける戦略だ。このうち、ドイツの大衆車オペルを28年から欧州域内でEV専用メーカーに切り替える。
また、ステランティスは欧米それぞれのブランドがあるため、欧州連合(EU)と米国政府のEVシフト政策の橋渡し役という立場にあることも他社との大きな違いだ。EVは基礎技術としてメーカー間での差別化が難しいため、ステランティスのようなマーケティングを軸足としたスピーディーなブランド戦略がEV事業の勝ちパターンになる可能性がある。
先行者利益狙ったVW
「ジャーマン3」と呼ばれるフォルクスワーゲン(VW)、ダイムラー、BMWの動きはどうか。
欧州のEVシフトの経緯を振り返ってみると、ターニングポイントはVWが16年に公開した中期経営計画におけるEVシフト戦略だ。15年にディーゼルエンジンの「不正ソフト問題」が発覚し、VWのブランドイメージは失墜、グローバルで販売台数が大きく落ち込んだ。
そのためVWは自社のシェアが高い中国で、中国政府が推進する新エネルギー車(NEV)政策へ同調することを視野に入れ、また欧州域内でもEV開発への大型投資を確約することで自動車メーカーとして求心力を回復しようとしていた。これが欧州で…
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週刊エコノミスト
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