経済・企業 商社2021
丸紅、三菱商事、三井物産はいち早く 商社大手5社の「脱石炭」通信簿=永野雅幸
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さらば石炭火力 丸紅・三菱、早い炭鉱撤退 発電所売却は三井が円滑=永野雅幸
総合商社の石炭関連の資産売却が今年に入り加速している。まず2月に、伊藤忠商事がコロンビアの一般炭(発電用石炭)「ドラモンド炭鉱」の権益20%全てを米石炭企業「ドラモンド」に売却することを発表した。6月には三井物産がインドネシアのパイトン石炭火力発電事業の持ち分45・5%全てを、タイで発電事業などを営む「ラート・グループ」に売却することで合意、8月には住友商事が豪州ロレストン一般炭権益12・5%の全てを、スイス資源大手「グレンコア」に売却することで合意したと発表した。これらの動きは、以下に述べる温室効果ガス削減目標が背景にある。
鉄鋼用石炭は残る
ESG(環境、社会、ガバナンス)の機運が高まるなか、E(環境)の面では特に温室効果ガスの削減に対する社会からの要求が強まり、総合商社各社からの温室効果ガス削減目標発表が相次いでいる。大手商社5社の中では三井物産が最も早く昨年5月に2050年ネット(実質)ゼロ、30年に20年比半減という目標を発表。昨年6月には住友商事(今年5月に目標引き上げ発表)、今年3月には丸紅、5月には伊藤忠が温室効果ガス削減目標を掲げた。現時点では、4社とも50年は温室効果ガス(あるいは二酸化炭素)ネットゼロを意味する目標を掲げる。
こうした「長期的な削減意思」に対して、より近い将来での、より定量的な「マイルストーン(道標)」として、30年の自社目標値を設定する企業がほとんどである。SDGs(国連の提唱する持続可能な開発目標)が30年の目標であることも影響している。あと8年ほどしかない近い将来であるため、温室効果ガス排出が相対的に高く、社会からの批判も多い石炭関連事業(炭鉱事業や石炭発電事業)の削減が目標達成への有力な施策となる。
石炭は、製鉄に使われる「原料炭」と、主に発電に使われる「一般炭」に大きく分類される。製鉄には鉄鉱石を還元する高炉法とスクラップを溶解する電炉法があるが、電炉法には不純物除去の技術的課題、世界でのスクラップ蓄積量の制約などがあり、高炉法は50年でも必要とされよう。その高炉法では、原料炭ではなく、天然ガスや水素を使って還元させることも可能だが、コストや生産性、技術確立度などの観点からは原料炭は今後も長期にわたり必要とされる可能性が高い。
発電には、天然ガスなど石炭でなくても代替可能な手段が多い。そのため、石炭火力発電、一般炭鉱山は社会からの批判が高まっている。石炭火力は、途上国の成長及びそれに必要な低コストの電力に対する正当なニーズを満たすというESGの「S(社会)」に貢献するとも言えるが、ここ数年で国際的な流れは大きく変化し、総合商社各社も石炭火力事業や一般炭炭鉱事業からダイベスト(投融資の引き揚げ)する戦略に転換している。
株主利益との対立も
上述したように炭鉱事業では5大商社とも「一般炭炭鉱事業はダイベストする」が基本戦略であり、原料炭炭鉱事業に関しては明確な意思表明や議論はしていない。図1〜5は大手5社の石炭持ち分生産量の推移である。以下で、5社の動向を説明したい。
丸紅 大手5社の中で最も先んじて石炭ポートフォリオをシフトさせた。社会からの一般炭炭鉱事業ダイベストの要請が高まるより以前に、14年には豪州レーベンスワース一般炭炭鉱を、16年には豪州マッコーリー・コール一般炭炭鉱を終掘。大手5社の中で最も早い一般炭炭鉱事業からの撤退と言える。
三菱商事 5大商社で2番目に早く一般炭炭鉱事業から撤退した。17年6月には豪州ハンターバレーオ…
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週刊エコノミスト
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