花街の美と巡礼の心を撮り続ける――「聖」と「俗」の写真家、溝縁ひろしさんインタビュー
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“聖と俗”を求めて 溝縁ひろし 写真家/2
50年近くにわたって京都の花街に伝わる伝統文化の美や技、四国八十八カ所など各地の霊場巡りをライフワークに撮影を続けてきた。「聖」と「俗」という一見、好対照な被写体だが、そのファインダーの先にのぞくものとは──。
(聞き手=大宮知信=ジャーナリスト)
「花街の美と巡礼の心を撮り続けています」
「信号待ちの時、舞妓さんが横切った。夕日が当たり、まるで京人形が目の前を歩いているような不思議な感じがした」
── 昨年は溝縁さんが写真を担当した『花街と芸妓・舞妓の世界』(誠文堂新光社)と文章も綴った『日本百観音霊場』(淡交社)、今年3月には写真集『昭和の祇園』(光村推古書院)を出しました。
溝縁 好きな写真を撮ることを職業にしていて、その延長線上でたまたま出版が続きました。『花街と芸妓・舞妓の世界』は、私が花街を45年間撮影していることもあり、若手の研究者とのコラボで東京の新橋や赤坂、新潟・古町、金沢など全国の花街を3年がかりで回った大作です。『日本百観音霊場』は西国三十三所、坂東三十三所、秩父三十四所を歩きました。(情熱人)
『昭和の祇園』は1973年から89年まで、京都最大の花街「祇園甲部」 の芸妓さんや舞妓さんを撮影したものです。白黒フィルムで年間約100本(36枚撮り)、総数にして約1500本分ありますが、今回の新型コロナウイルス禍で時間ができた分、再度ゆっくりチェックすることができました。しまっておいたロッカーや段ボールがほこりっぽく、マスクをしてルーペをのぞく日々でしたね。
── 京都の市電や魚売りの行商と写った舞妓さんの写真もありますね。
溝縁 はい。当時の様子が分かる町並みなど、思わぬ写真がたくさん発見できましてね。そのうち、お気に入りの写真を1500枚ほどスキャンしてデータ化し、その中から祇園の花街文化を守り受け継ぐ芸妓さん・舞妓さんの写真など、260枚ほどを本に収録しました。ゆっくり昭和の祇園を見直すと、けっこういい写真がある。それが今回、日の目を見たということです。
── 一つのテーマを追いかけていると、昔撮った作品でも整理してまとめれば一冊の本になる。ビジュアルで記録性のある写真の強みですね。反響の方はどうですか。
溝縁 本当に喜んでもらっています。今は他の仕事をしている昔の舞妓さんからはがきが来て、「うちのこんな姿の時がこんな写真になって、うれしいです」とか、「ちっちゃい時の写真を撮ってくださってありがとう」などと書かれていると、こちらもうれしいですよね。
京都・祇園の交差点で
── コロナ感染拡大の影響でお座敷が激減し、新潟・古町の芸妓がクラウドファンディングを活用して支援を呼びかけたりもしています。京都の花街はどんな状況ですか。
溝縁 長引くコロナ禍で花街も大変だと聞いています。特にお茶屋さんでのお座敷は「おもてなし文化」の接客です。午後8時までの営業時間の制限やお酒が出せないといったことが重なり、ほとんどが休業しています。芸妓・舞妓さんもお稽古(けいこ)は少人数でしていますが、ホテルでの宴席やお座敷での披露の場がなく、「お客さんにも会えないのが一番さみしおす」と言っていました。花街も人けがほとんどありません。花街のおどりの会も2年続けて中止や規模の縮小をしています。京都では先斗(ぽんと)町がクラウドファンディングで資金を集め、(舞踊公演の)「鴨川をどり」をオンラインで配信しましたよ。
京都には祇園甲部、宮川町、先斗町、上七軒、祇園東、島原の六つの花街がある。そのうち島原をのぞく五つの花街を総称して「五花街」という。舞妓は芸道を習い一人前の芸妓になるための修業期間だ。香川県出身の溝縁さんは71年に大学卒業後、京都市のガラス繊維メーカーに生産管理や研究開発職として入社。その京都で、祇園の街を歩く舞妓に魅せられたことが、その後の人生を大きく変えた。
── 舞妓さんに魅せられたきっかけは。
溝縁 会社生活に少し慣れ、休日には一眼レフのカメラを持って、京都の観光名所、旧跡などの撮影を趣味で楽しんでいたんです。ある時、八坂神社から京阪四条(現・祇園四条)の駅の方へ歩いて帰る途中、交差点で信号待ちをしているときに、目の前を舞妓さんが横切ったんです。ちょうど夕方の時間で、信号を忙しく通り過ぎていく舞妓さんに夕日が当たって、まるで京人形が目の前を歩いているような不思議な感じでした。それからですよ、舞妓さんの写真を撮りたい一心で花街の世界に通い始めたのは……。
── 一般の人が花街に入るのは難しいと思いますが、どうやって入り込んだんですか。
溝縁 年中カメラを持って行くものですから、お茶屋のおかみさんと顔なじみになりまして。しょっちゅう顔を合わせていると、「どっから来たの」というような立ち話から始まって、冬の寒い時…
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週刊エコノミスト
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