負債総額34兆円 デフォルト危機の恒大集団 中国当局が示す処理への「自信」=富岡浩司
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中国の大手不動産デベロッパー「恒大集団」の経営不安が世界の金融市場を揺るがせている。今年6月末時点の負債総額は2兆元(約34兆円)近くと巨額で、このうちドル建て債券の残高は140億ドル(約1・5兆円)にのぼる。恒大集団がデフォルト(債務不履行)すれば、世界を金融危機に陥れるとの懸念が高まっているが、中国当局はコントロールに自信を持っているようにみえる。
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当面注目されるのは、同社のドル建て債券の利払いである。9月23日と29日に予定されていた支払いは30日の猶予期間に入った。10月には4回、11月と12月にそれぞれ2回の利払いがあるほか、シンガポール取引所などに上場している恒大集団のドル建て上場債券は来年3月以降、続々と償還を控えている。また、年末に近づく11月中旬以降は、恒大集団に限らずデベロッパーに年越しの資金繰り不安が高まりやすい。
香港証券取引所に上場する恒大集団の株価は、信用不安が広がった今年7月以降急落し、10月4日には売買停止となった。同社株価は2017年11月には30香港ドル超を付けていたが、今年9月21日には2・27香港ドルと10分の1以下にまで下落した。また、不動産管理の「恒大物業集団」、電気自動車(EV)開発を手掛ける「恒大新能源汽車集団」などの上場子会社の株価も軒並み大幅に下落している。
恒大集団を巡っては、恒大物業集団や恒大新能源汽車集団の株式など、保有する資産売却の動きが盛んに中国メディアで伝えられている。資金繰りに窮する中、手元の現金を確保するための動きとみられるが、特にドル建て債券については誰がどの程度保有しているか分かっておらず、市場の不安心理をさらに高めている。そうしたドル建て債券がデフォルトすれば、連鎖的に信用不安が世界に拡大しかねない。
二つのつまずき
世界でも有数の不動産デベロッパーに成長した恒大集団のつまずきは、二つの大きな経営ミスにある。その一つが、深圳を地盤とする不動産大手「万科」の株式買い占めに失敗したことだ。15年に無名企業が万科に対して起こした敵対的買収に乗じ、恒大集団も万科株を買い進めたが、中国当局が万科株取得の資金の出所などを問題視。結局、恒大集団は17年、万科株を譲渡して70億元(約1200億円)規模の損失が発生した。
もう一つのミスが、新たな資金調達手段の確保を狙い、深圳証券取引所への上場を目指して投資家を募ったことだ。16年に子会社の恒大地産集団と、深圳市場に上場する不動産企業を経営統合させる計画を発表し、投資家から1300億元(約2兆2500億円)もの資金を集めたが、不動産市場への過度な資金流入を警戒する当局が上場を認めず、昨年11月に計画を撤回。投資家に配当を支払ったことで多額の損失を計上した。
過去の話はともかく、今の恒大集団の本質的な問題は、本体が抱える膨大な債務を処理できるかどうか、という点にかかっている。同社の21年6月末時点の借入残高は5718億元(約9兆9000億円)、買掛金などを合わせた負債総額は1兆9665億元にもなる。それでも、20年12月期の売上高は5072億元、純利益は314億元もあるうえ、保有する物件は総じて良質なものが多いとされる。
その企業が一転、危機までに追いやられてしまったのは、中国政府の不動産デベロッパーへの規制強化と、住宅価格抑制策が理由だ。恒大集団が財務圧縮に本格的に乗り出したのは、20年夏にさかのぼる。中国当局が不動産業界の債務膨張を懸念して、「三道紅線」(三つのレッドライン)と呼ばれる三つの財務指標に沿った規制強化策を打ち出したからだ。
三つの財務指標とは、(1)総資産に対する負債比率が70%以下、(2)自己資本に対する負債比率が100%以下、(3)短期負債を上回る現金の保有──で、未達の指標の数に応じて銀行借り入れの伸び率を抑制するというものだ。三つのレッドラインが示されたことを受け、恒大集団に限らずすべての不動産デベロッパーが借り入れの削減に奔走するようになる。
「共同富裕」の障害に
中国の民間研究所のデータによると、中国の上場デベロッパー85社のうち、21年中間決算時点で条件を三つともクリアできたのはわずか32社、一つクリアできなかったのが32社、二つクリアできなかったのが13社、三つともできなかったのは8社となっている。恒大集団はこのうち、(1)が81・1%、(3)で現金残高が短期負債の67・0%と、二つが未達の部類に属しているが、恒大集団以上に厳しいデベロッパーも数多い。
実際に、三つともクリアできなかった上海上場A株(人民元建て取引)の四川藍光発展は今年7月、債券をデフォルトしたほか、同じく華夏幸福はデフォルトの段階を過ぎて事実上、破綻状態に追い込まれている。これらの企業については、政府や金融機関主導で債権者会議などが開かれ、保有資産の売却など粛々と処分が進められている模様だ。
中国が不動産市場を強烈に引き締めているのは、過剰債務の圧縮だけが狙いではない。高すぎる住宅価格が、習近平国家主席の強調する「共同富裕」(国民全てが豊かになる)の障害になるからである。デベロッパーへの規制強化などにより、20年の新築住宅価格は北京で平均的な労働者年収の23・8年分、上海で26・2年分などとなっており、ローンの完済を考えればとても手の届かない水準だ。
住宅価格が下がるなら、中国恒大を含めた過剰債務のデベロッパーは、遅かれ早かれ立ち行かなくなる。さらに債務が膨らんで処理がいっそう難しくなる前に、政府は不動産市場をクラッシュさせないように注意を払いながらも、過剰債務のデベロッパーを「安楽死」させる方向に誘導していると思われる。つまり、中国当局は過剰債務のデベロッパーを意図的に淘汰(とうた)しており、恒大集団も例外ではないということだ。
景気底割れの懸念
中国ではデベロッパーへの引き締めや不動産市場の調整は目新しいことではない。恒大集団は規模の大きさゆえに、住宅購入者や取引業者に与える影響も大きく、中国政府は企業としての存続はともかく、事業の継続を最重要視していることは間違いない。実際に、中央政府は地方政府に対し、プロジェクトの売却や金融機関の貸し出し延長の調整にあたるよう指示している。
また、ド…
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週刊エコノミスト
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