経済・企業エコノミストリポート

ネット通販を巡る消費者相談が22万件に急増、取り締まりも強化=木村祐作

情報化社会にはデメリットもある Bloomberg
情報化社会にはデメリットもある Bloomberg

インターネット通販 「定期購入商法」の落とし穴 急増するネット通販トラブル=木村祐作

悪質業者との“イタチごっこ”

 消費者トラブルの相談などを行っている独立行政法人国民生活センターによれば、2020年度の消費者相談件数は約94万件に上ったが、項目別ではインターネット通信販売に関する相談が、前年比24%増の22万件と急増。その相談内容の内訳は、「健康食品」「デジタルコンテンツ」「化粧品」「商品一般」「アダルト情報サイト」の順に多かった。

 インターネットを利用した通信販売(ネット通販)で、特に問題になっているのは、「定期購入商法」をめぐるトラブルだ。これはネット上の「初回無料」「お試し価格500円」などの広告を見て、1回限りの購入だと思って申し込んだところ、実際には複数回購入することが、「初回無料」などの条件となっており、高額な料金を請求されたというものだ。

 定期購入商法の消費者相談件数は、16年に約1万5000件に上り、18年は約2万3000件、19年に5万件を突破し、20年度には約5万6000件にも達している。それでもこれらの数字は、実際のトラブル件数の数%に過ぎないと推測されている。

巧妙な手口

 トラブルのほとんどは、健康食品や化粧品に関するものだ。

 例えば、ある20代の女性は、動画投稿サイトでダイエットサプリメントが500円という広告を見て、その販売サイトにアクセス。1回限りのつもりで注文したが、3週間後にまた商品が届き、5000円の請求書が入っていた。販売業者に電話で返品を申し出たところ、じつはその商品は定期購入が条件となっており、解約が困難となってしまった。

 販売サイトでは「お試し価格500円」などを目立つように表示している一方で、定期購入契約の説明に関しては、サイトの隅っこや離れた箇所に、小さな文字で“こっそり”表示しているものも多く、消費者が見落としてしまうケースが非常に多い。

 中にはウソの説明で解約させない悪質業者もいる。悪質業者の典型的な手法は次のようなものだ。

 まず、SNSなどで「1カ月で10キロ減少!」「2週間でシワが消えた!」といったウソの効果をうたって、サプリメントや化粧品を宣伝する。そして消費者を販売サイトへ誘導し、「お試し価格500円」といった表示で、1回限りの購入だと思わせて申し込ませる。消費者が定期購入契約と気づいて解約を求めてきた場合には、ウソの説明を行って解約させないように仕向けるという手口だ。

「定期購入商法」問題と並び、ネット通販で深刻な問題となっているのが、大げさな効果をうたう違法広告だ。次のようなものだ。

「自然免疫を高める新規の成分〇〇〇を発見!」(サプリメント)

「医療関係者も勧める『90%がフサフサになった育毛剤』がヤバイ!」(育毛剤)

「女の格を上げるのは塗るだけダイエット?!」(ボディークリーム)

 広告を信じて商品を購入した消費者は、実際に使っても効果がなく、だまされたと気づくが“後の祭り”である。

“元締め”を処分

 消費者庁と都道府県は、景品表示法(景表法)や特定商取引法(特商法)によって、ウソの効果をうたう広告や悪質な定期購入商法を取り締まっている。20年度の景表法による処分は、国・都道府県合わせて56件。特商法による処分は141件に上った。

 だが、これは氷山の一角だ。消費者庁の担当官は「特に健康食品の広告はいくら取り締まってもきりがない」(表示対策課)と憤る。最近の取り締まりで注目されるのは、今年7月15日、ネット通販で悪質な定期購入商法を繰り返していたグループの裏に隠れた“元締め”を、特商法違反で処分したことだ。消費者庁の担当官は「黒幕の存在を野放しにできなかった」(取引対策課)と話す。

 処分されたのは、LIBELLA(東京都新宿区)で、同社は20年に特商法違反と認定されたGRACE、wonder、Kanaelの3社を、いわば隠れみのにして活動していた。この3社については、LIBELLAが資金を提供したり、社員を送り込んだりして会社を設立したことが判明している。LIBELLAは一切表に出てこないが、3社を支配下に置き、共同で悪質な定期購入商法を展開していた。

「今すぐ契約すれば」

 悪質業者に対処するため、消費者庁などは度重なる法改正を行ってきた(71ページ表1)。しかし、次々と現れる新たな…

残り1130文字(全文2930文字)

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