畑の肉で作ったツナ缶が水産業を救う。漁獲量減少と需要増に対応=具志堅浩二
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「人口増・食料減」時代に光明 “畑の肉”がマグロに化ける 「代替水産物」市場が急拡大=具志堅浩二
パカッとタブを引き起こして缶のフタを開けると、ほのかにツナのような匂いが漂ってきた。
中身は本物のツナではない。大豆が主原料の代替ツナだ。缶の中身を皿に出して箸を伸ばすと、本物のツナより弾力を感じるが、口に入れると確かにツナに似た味がした。試しに、比較のために購入した本物のツナ缶の油に代替ツナを浸してから食べてみると、本物の味にさらに近づいた。
商品名は「NEXTツナ1・0」。大豆など植物性の材料を使った代替肉のスタートアップ、ネクストミーツ(東京都)が生産した。2017年から代替肉の研究を始め、20年に法人化した同社は現在、「NEXT焼肉」シリーズや「NEXTチキン」「NEXT牛丼」など植物性材料を使った代替肉商品を展開中。NEXTツナ1・0は、代替水産物商品の第1弾だ。
開発で苦労したのは油の量だという。本家のツナ缶のように油の量を増やしたかったが、技術的な課題に阻まれた。それでも「味はかなり本物に近くなっている。現状でやれるところまではやった」と同社会長の白井良氏は語る。製品名の後ろに「1・0」を付けたのは、今後も改良して商品をさらに成長させ続けるという意図の表れだ。
10月6日に、自社サイトを通じて1950円(5缶セット・税込み)で発売したところ、用意した4000個は即日完売。「まさか1日で売り切れるとは。正直すごくびっくりした」(白井氏)。目下、イカやタコといったツナ以外の代替水産物も開発中という。
「人口爆発」が背景
近年、動物の肉の代わりに植物性の材料を使って味や食感、見た目を肉に似せた「代替肉」や、動物から取った細胞を培養して食品にする「培養肉」についてのニュースをよく目にするようになった。今、こうした動きがマグロなどの水産物にも及んでいる。
三井物産戦略研究所研究員の佐藤佳寿子氏は、この背景に、世界的な人口増加による食肉供給不足への懸念があると見ている。世界の人口は20年の78億人から50年には97億人に達すると予想されており、将来的に食肉供給が不足するとの見方もある。代替肉と培養肉には、増え続ける食肉需要を補う役割が期待されている。
佐藤氏は「代替水産物についても背景はほぼ同じ。それに加えて、水産物の需要は増加傾向にあるが、漁業の水揚げ量は30年前から横ばい。養殖の生産量は増えているが、海面養殖が可能な地域は限られるほか、養殖に伴う海洋汚染などの課題もあり、今後も増加する水産物需要に応えるのは難しい」と指摘する。
佐藤氏によると、海外では植物性材料を使った代替水産物がすでに販売されている国がある。細胞培養の代替水産物の商品についてはまだ販売実績がないが、各国における開発の動きは活発化しており、市場に登場する日は遠くないと予想する。
シシャモ不漁が後押し
国内でも、植物性材料の代替水産物は冒頭のNEXTツナ1・0を含め、市場に登場し始めている。
コンニャク粉を主原料に用いたマグロ、サーモン、イカの代替商品を開発するのは、食品メーカーのあづまフーズ(三重県)だ。「まるで魚シリーズ」と名付けられたこれら商品は、刺し身などの生食が可能という。
同社が代替水産物の開発を始めたきっかけは、欧州のシシャモ不漁だった。同社の主力商品の一つは、軍艦巻きやカリフォルニアロールなど寿司ネタとして人気のあるシシャモの卵の加工食品。アイスランド産のシシャモの卵を使って生産していたが、資源量の減少を受けてアイスランド政府が19年のシシャモ漁の禁止を決定。翌20年も資源量が回復せず同国政府は禁漁を続けたため、同社では他の魚種の卵の使用を検討したり、生産制限を行ったりするなど懸命に対応したが、一部の顧客は離れてしまった。
「この経験から、当社では今までのように自然資源だけに頼れないと判断し、代替水産物の開発に着手した」と語るのは、海外事業部の松永瞭太氏。
同シリーズの生産は、すでに同種の商品を開発・販売していた台湾の食品メーカーに委託。コンニャク粉などの原料の配合比を変えることで本物そっくりの食感を追求したほか、刺し身やカルパッチョなど本物と同じ食べ方ができるよう味付けを工夫した。
発売は10月末の予定。取材した10月12日時点ではまだ発売されておらず、残…
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週刊エコノミスト
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