経済・企業 脱炭素・DX 技術革命
脱炭素でも半導体が要、日本独自のファウンドリー急げ=津田建二
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電子立国再び 復権のカギは半導体にあり 必須となる“独自製造工場”=津田建二
「独自の半導体シリコンを持つことは、“脱炭素”を実現するための重要なテクノロジーの一つだ」──。
5G(第5世代移動通信システム)をはじめとする基地局向け通信機器大手、フィンランドのノキアが独自開発の半導体プロセッサーを今年10月に発表した。その理由の一つが脱炭素であった。
EV、再エネに不可欠
半導体が脱炭素に欠かせないとはどういう意味か。例えば、二酸化炭素(CO2)を排出しない電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など今後の環境規制に適合したクルマの動力モーターを制御するために半導体が不可欠だ。
また、太陽光や風力といった自然エネルギーによる発電は、そのままでは使えない。発電した数百ボルトの直流電力や交流電力を、家庭用の交流100ボルト/200ボルトの電圧と周波数に合わせなければならない。その制御のために半導体が必要となる。
EVやハイブリッド自動車(HV)のバッテリーに充電する場合にも半導体が不可欠だ。逆にEVに積まれた高電圧のバッテリー(300~400ボルト)からモーターを動かすための交流の電流を作り出すためのインバーター装置にも半導体を使う。
さらに、あらゆるシステムに使われる電子機器やコンピューターの消費電力を減らすこともCO2を削減することになる。例えば、コンピューターや回路ボードを動作させるための半導体LSI(大規模集積回路)や電源IC(集積回路)で電力効率を上げれば消費電力は減る。冒頭で述べたノキアの狙いは、データセンターの消費電力を減らすことである。
半導体産業の歴史は、消費電力削減の歴史でもあった。演算や制御に使う半導体そのものが消費する電力を削減してきた。
コンピューターやデジタル回路では消費電力を下げて1ワット当たりの演算速度などの性能を上げてきた。デジタル回路だけではない。数十ワットと大きな電流を無駄なく扱うためのパワー半導体も、「バイポーラトランジスタ」から「パワーMOS(金属酸化膜)トランジスタ」、そして「IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)」へと進化してきたが、全て無駄な消費電力を削減し小型化するための技術を推進してきた。
スマートフォンの電源アダプターは、一辺が2・5センチメートル程度の立方体に収まっているが、これは半導体をうまく使って効率を上げてきたためである。効率が悪いと無駄な電力が熱に代わるため、熱を逃がすために大きくせざるを得なくなる。つまり小型にできない。最新のパワーMOS半導体は、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)という化合物半導体を使って、さらなる省電力化を実現しようとしている。
パワー半導体だけじゃダメ
幸い日本の半導体企業はパワー半導体では比較的強い。市場調査会社オムディアによると2020年における世界ランキング(図1)では、1位が独インフィニオンテクノロジーズ、2位が米オン・セミコンダクターだが、3位三菱電機、5位富士電機、6位東芝、7位ルネサスエレクトロニクスと日本企業が4社も入っている。だから、パワー半導体で日本が優位な立場にあるという声は多い。
ただし、パワー半導体全体の世界市場は20年に141億ドル(約1・5兆円)と、半導体全体市場の4404億ドル(約48兆円)から見るとわずか3%にすぎない。しかも、日本のパワー半導体メーカーは社内向けが極めて多い。外販が少ないため、売り上げはそれほど大きくない。つまり、売り上げがさほど多くなくてもトップテンに入るほどパワー半導体市場は小さい。
また、…
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週刊エコノミスト
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