共産党支配強化に向けた習近平の中間層拡大策が新たな政治リスクに=佐々木智弘
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中国共産党が今年7月、創立から100年を迎え、中国建国(1949年)から70年以上がたつ。中国共産党の一党支配が長く続いた要因は、社会を統制する強制力の保持だけではなく、社会主義の理念を支持せずとも、経済的に満足な生活を保証してくれる共産党への社会の消極的支持も大きい。歴代政権同様に習近平政権を不安定にする政治リスクは、この社会の消極的支持と大きく関わっている。
毛沢東は「みんなが平等に豊かになる」という共産主義の理想を国家ビジョンとして掲げ、人々を期待させたが、結果的に貧しき平等しか残さなかった。鄧小平は改革・開放政策によって、人々を豊かにしたことで、共産党への支持を回復した。その後、1989年の天安門事件と90年代初頭のソ連・東欧の社会主義国家の崩壊で、共産党の存在理由が大きく揺らいだ。
しかし、江沢民が市場経済化を進め、90年代の高度経済成長を実現した。その結果、所得が増えて豊かな生活を享受する中間層が生まれ、共産党を消極的に支持した。続く胡錦濤は、経済格差や環境問題など経済成長の歪みを是正しようと「調和社会の構築」を掲げたが、経済成長によって台頭した既得権益層の抵抗に遭い失敗した。しかし、高度経済成長が続いたことで結果的に中間層の支持を維持した。
党大会まであと1年
習近平総書記が今年8月ごろから「共同富裕」を強調し、中間層の拡大に本格的に乗り出したことは、現在4億人の中間層の支持を広げ、一党支配をより強固にしようという政治リスクへの予防的対応に見えた。しかし、政権基盤が盤石で3期目続投が確定的な習近平が、次期党大会を1年後に控えたタイミングで、経済格差の是正のために、いわゆる再分配政策にかじを切ったこと自体が政治リスクといえる。
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週刊エコノミスト
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