経済・企業

中国IT企業が新たなパブリックエナミーとして攻撃の対象に=高口康太

黄色の服が特徴の美団の配達員。独占禁止法違反として巨額の制裁金を科された Bloomberg
黄色の服が特徴の美団の配達員。独占禁止法違反として巨額の制裁金を科された Bloomberg

危機2 新興IT企業規制 「社会の敵」たたきの標的に 独禁法の恣意的運用も駆使=高口康太

 中国IT企業が当局から強い圧力を受けている。中国を代表するEC(電子商取引)大手アリババグループも例外ではない。国家市場監督管理総局から今年4月、同社のインターネットプラットフォームに出店する企業に「二者択一」を強要したとして独占禁止法違反を指摘され、182億元(約3190億円)もの制裁金が科された。

 アリババグループを巡っては、関連企業であるフィンテック(金融テクノロジー)企業のアント・グループが昨年11月、IPO(新規株式公開)前日になって、突然の延期を発表した。適切な金融規制を受けていないことなどが問題視されたもので、今も当局の監視の下で是正に取り組んでいる。アリババグループ本社が独禁法違反で捜索されたのは、その翌12月のことだった。

 また、デリバリー大手の美団(メイトゥアン)も今年10月、支配的地位を乱用したとして、独禁法違反で34億4200万元(約600億円)の制裁金が科された。中国当局が駆使するのは独禁法だけではない。配車アプリ大手ディディは米ニューヨーク証券取引所に上場直後の今年7月、中国のサイバースペース管理局からサイバーセキュリティー違反が指摘され、調査を受けている。

 調査結果はまだ公表されていないが、アプリのダウンロードと新規ユーザー登録の禁止処分が続いている。市場は先行きを懸念し、株価は上場直後の半値以下にまで落ち込んでいる。

 また、学習塾の非営利化を指示した今年7月の教育規制では、エドテック(教育テクノロジー)企業が潰滅的打撃を受けたほか、未成年は金土日に1日1時間しかオンラインゲームを遊んではならないという、強烈なゲーム規制も導入された。

汚職官僚の「代わり」

 中国ではよくある話とはいえ、わずか1年間でこれほどの事件が起きるのは異例だ。「社会主義に回帰しようとしているのではないか」「新たな文化大革命の始まりだ」──。さまざまな俗説が飛び交うが、この異常事態を理解するには、10年前の「狂騒」が参照事例となるかもしれない。

 習近平体制は2012年秋の党大会で成立するが、その前後に中国を騒がせたのが有力官僚の失脚だ。習近平と並ぶ太子党(高級幹部子弟のグループ)のプリンスだった薄熙来元重慶市党委書記や、中国共産党の最高指導部である中央政治局の周永康常務委員を筆頭に、多くの汚職官僚が罪を問われた。

 権力を盾に莫大(ばくだい)な資産を不正に蓄財していた官僚たちは、多くの民衆にとっては羨望(せんぼう)と憎しみの対象であった。その「パブリックエネミー」(社会の敵)をたたいたことで、習近平氏の名声は高まり、党の綱紀粛正にもつながった。今年6月、中央紀律検査委員会の肖培副書記は12年の党大会以後、374万2000人もの官僚が党紀違反で摘発されたと明かしている。問題が…

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週刊エコノミスト

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