経済・企業 中国3大危機
台湾の民進党政権が安定するほど、中国の武力行使のリスクは高まる=野嶋剛
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台湾 民進党政権が安定するほど中国が強硬姿勢のジレンマ=野嶋剛
「中国共産党が、孫文の最も忠実な継承者だ」
中国の習近平国家主席は10月9日、北京で開かれた辛亥革命110周年記念式典で、高らかにうたいあげた。清朝を倒した革命は、中国近代化のあけぼので、中華世界での威名はなお大きい。習近平の言葉は、もちろん、孫文が打ち立てた「中華民国」の国名を有する台湾に向けられたものだった。「台湾の支配権は我が手にある」という宣言である。
辛亥革命記念日の10月10日は日付に10が重なることから「双十節」と呼ばれ、台湾は建国記念日と位置付けている。習氏の発言の翌日、台北で開かれた双十節記念式典で、台湾の蔡英文総統は「圧力に屈すると思わないでほしい」「両岸(中台)はお互いに隷属しない」と述べ、習氏が投げかけた「継承論」の議論を、さらりとかわしてみせた。
中台が火花を散らすのは、言葉の上だけではない。双十節の前には、中国の軍機が前例のない規模で台湾の防空識別圏を侵犯していた。これに対抗するように、台湾は双十節の軍事パレードでは自主開発の対空・対艦ミサイルを誇示した。主要7カ国首脳会議(G7サミット)や日米首脳会議などでは盛んに「台湾海峡の平和と安定」が語られている。険しさを増す台湾情勢のリスクは、いま、国際的な重大な関心事に浮上している。
強さが際立つ通貨
中国の圧力を受ける台湾だが、好材料もある。台湾ドルは対米ドルで上昇(台湾ドル高)が続いており、メディアは「アジア最強の通貨」と評する。2019年末から現在まで、対米ドルレートが8・67%切り上がった。韓国ウォン、日本円、シンガポール・ドルなどのアジア主要通貨が対米ドルで下落傾向にあるのと比べれば、その強さは一層際立つ。
レートの上昇は、ひとえに台湾経済の好調さゆえだ。21年、台湾の国内総生産(GDP)成長率は5%を超える見通しで、約30年ぶりに中国のGDP成長率を上回りそうな勢いだ。台湾経済を引っ張るのは世界的な半導体好景気だ。米国の対中デカップリング(分離)政策もあり、世界的な半導体不足のため、世界のファウンドリー(受託生産)の7割を制するTSMCなどの台湾企業にさばき切れない受注が舞い込む。
一方、内需も堅調で、コロナ対策の成功によって台湾社会は通常の経済生活がおおむね維持されている。海外からの観光・ビジネス渡航がないためホテル業などは苦しいが、総じていえばダメージは抑えられている。「外」と「内」に支えられ、経済が安定していれば、中国の「経済カード」が効きにくくなる。
加えて、蔡英文政権にとって心強いのが、米国と日本の台湾支持の動向だ。国力の限界をよく知る台湾の民衆は、大国の動向に敏感に反応する。米国は安全保障上の対中懸念から、台湾へのテコ入れを活発化させている。1979年の米台断交以来、途絶えていた米軍の台湾での活動が、特…
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週刊エコノミスト
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