国際・政治 円安 原油高
中東から手を引く米国、サウジに接近する中露=福富満久
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資源安保 中東から手を引く米国 サウジに接近する中露=福富満久
世界が脱炭素に大きくかじを切る中、原油をめぐり米国と中露、中東産油国の激しい駆け引きが続いている。20世紀は、「石油の時代」といっても過言ではないほど、その生産国(中東)とその輸送路(ペルシャ湾)には、極めて高い国際政治上の特権が与えられていた。ところが今、脱化石燃料への急転換の局面で、エネルギー安全保障をめぐる国際関係の再構築が模索され始めている。
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの産油国でつくる「OPECプラス」は10月4日、閣僚級会合を開き11月は予定通り、前月比で日量40万バレルの小幅増産にとどめることを決定した。これにより「米国産WTI原油」の先物価格が一時、2014年11月以来7年ぶりに1バレル=80ドルを上回る高値をつけた。
OPECプラスとは、湾岸産油国を中心とするOPECとロシアを中心とする石油産出国による価格調整のための「国際カルテル」である。00年代からシェールオイル革命による石油産出で、世界一に躍り出た米国はOPECが生産量を削減するたびに生産を増やすことで、OPECの価格決定力に圧力をかけた。その米国に対抗して16年に創設されたのが、OPECプラスである。その目的は、化石燃料の価格を管理することに他ならない。
実は、OPECとロシアが手を結ぶ引き金になったのは米国の石油生産量世界一だが、米国は自国でそのほとんどを消費するため、輸出キャパシティーの多いサウジアラビアがロシアと手を組み、国際市場で重要な役割を果たしている。OPECプラスは、世界の石油供給の50%以上、確認済み石油埋蔵量の約90%を支配下に収める。1バレル=80ドルを超えてきたところで輸入国から悲鳴が上がり始めているが、供給を増やせば価格が下がる。新型コロナウイルスの世界的大流行の新たな波が世界経済に影を落とし、需要が再び低下することも視野に入れる必要があるため、サウジとロシアは一致して供給を増やそうとはしていない。
循環炭素経済
対して米国は、新しい時代にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)政策を推進して、次世代エネルギー企業の創出を目指す戦略を加速化させている。今後15~20年で二酸化炭素(CO2)を回収して「カーボンキャプチャー」の利用・貯蔵の経験を積んできた大手の石油・ガス企業が炭素管理企業に転換することが想定されており、電気自動車(EV)をけん引するテスラのように世界をリードする企業が生まれることを見込む。回収したCO2を油田の残存原油の採収率を向上させるために使用できることから、石油企業も積極的だ。
産油国のサウジも手をこまねいているわけではない。10月23日、サウジで始まった会議「サウジ・グリーン・イニシアチブ・フォーラム」で、ムハンマド皇太子は60年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロとする目標を発表した。年間の排出削減の目標を倍にし、再生可能エネルギーなどに1870億ドル(約21兆円)の投資を見込む。
「サーキュラー・カーボン・エコノミー(循環炭素経済)」はサウジの今後を占…
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週刊エコノミスト
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