経済・企業

レストランの料理が「ステルス値上げ」され、時価表示になった米国インフレの元凶 人手不足が解消に向かうのか=笠原滝平

少ない従業員、高騰するメニュー Bloomberg
少ない従業員、高騰するメニュー Bloomberg

インフレリスク2 賃金も物価も押し上げる 人手不足が株高を阻む=笠原滝平

 米国では雇用環境の本格回復が見通せる状況になっている。

 新型コロナウイルスのデルタ株の流行によって今夏に感染第4波が到来し7〜9月期の景気が減速した一方で、コロナワクチンのブースター接種(3回目の接種)や子供向け接種の開始、政府機関や企業での接種義務化など、コロナ感染を改めて抑え込むための追加的な取り組みが増えている。

 今後、感染がさらに収束していけば、人々の外出行動が持ち直し、サービス分野を中心に個人消費が速やかに再加速することが期待される。さらに、コロナ禍の経済対策として導入された失業保険給付の上乗せが9月までに打ち切られたほか、秋からの新学期には対面授業を再開する学校が増えた。こうした要素から、労働者の復職に向けた下地が整いつつある。

幅広い品目で価格上昇

 11月5日に公表された10月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月差プラス53万人と7月以来の増加幅となり、感染第4波により減速した夏場から復調の兆しがみられる。米国経済の着実な拡大は、企業業績の改善につながり、株価の堅調な地合いも維持されるだろう。

 しかし、こうした「景気再加速・株高継続」シナリオに対し、目下最大のリスクになっているのがインフレ率の高止まりや一段高である。本格回復が期待される雇用環境だが、後述するように人手不足を通じて物流・生産面での供給制約や賃金上昇を引き起こしうる要素でもあり、インフレとも密接につながっている。

 代表的インフレ指標である10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比プラス6・2%と、1990年以来約30年ぶりの上昇率だった。現地からは、レストランで価格表示されていたメニューが時価へ切り替えられたり、商品価格据え置きで内容量が少なくなったり(Shrinkflation)と、統計や値札で見る以上にインフレが日常生活に影響している話も聞く。

 また、今年前半の価格高騰は、外出行動回復の影響を受けた中古車や航空運賃、資源価格など一部の品目に限られたが、現在は、家具、テレビなど幅広い品目にインフレ圧力が及び、エネルギーや食料品を除いたコアCPIは1991年以来の伸びとなっている。価格が急変動した品目を除く「刈り込み平均CPI」や、インフレ品目の割合はいずれも上昇が続いていることからも、インフレの裾野が着実に広がっている様子がうかがえる。

 これまでのインフレ率上昇の主な要因としては、(1)ベース効果、(2)原油価格高騰、(3)人手不足──が挙げられる。

 第一のベース効果とはコロナ禍によって20年に需要が大きく落ち込み、インフレ率が低下した反動である。第二の原油価格高騰は、世界的に原油需要が持ち直す一方で「OPECプラス(石油輸出国機構とロシアなどの非加盟国)」が増産に転じたものの生産抑制を続けていることや、米国のシェールオイル生産も横ばいにとどまっていることなどが背景にある。そして、第三の人手不足は今回のインフレ局面で広範な品目に価格上昇圧力をもたらしており、コロナ禍が残している影響ともいえる。

 今…

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