資源・エネルギー 事故
送電線工事の死者が最多記録 地方経済が抱える「深い谷」=編集部
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送電線工事の死者数が2020年に過去20年間で最も多い水準となった。送電線建設技術研究会によると、6人が命を落とした。死亡災害は過去5年が毎年3~4人で推移しており、10年以降はゼロの年が3回あっただけに、送電工事業界も深刻に受け止めている。
災害の多さに加えて、作業員の“なり手不足”も業界の大きな課題だ。送電鉄塔は高度成長期に多く建てられ、今がまさに建て替え需要のピーク。しかし、人手不足などで計画通りに進んでいないという。
山奥の過酷な工事
送電鉄塔は山奥に建っているものも多い。メンテナンスが必要かどうかを見定めるため、現場に出向いて高所へ登る必要もある。送電鉄塔の建て替え建設工事に加えて巡視や保守などざまざまな作業員の手を介して送電線と鉄塔は維持できている。
彼らは道のないところを数十キロにもなる重い工具を背負って現場を目指す。特に夏場は熱中症との闘いだ。
ただでさえ若者の人口が減少しており、送電線や鉄塔の工事や保守の仕事を選ぶ若者は少ない。そこで死亡事故が過去最多の水準では、「危険な仕事」とのイメージが広がってしまいかねない。
ドローンで3K解消でも…
さらに地方になると、若者の人数が都市部より少なくなる。
総務省の労働力調査によると、20年の労働力人口(15歳以上)は東京都で前年比約11万人増えているのに対し、北海道は同2万5000人の減少。山梨県や三重県、島根県などの地方も同1万人以上も減っている。それだけ地方の送電工事会社が若者を確保するのは難しくなる。
人手不足を解消するため、電力会社と建設工事会社はドローン(無人飛行機)に着目した。カメラを取り付けたドローンを送電線の上空や鉄塔に沿わせる形で飛行させて撮影。その画像や動画を確認することで、送電線や鉄塔の状態を把握する。
巡視のために作業員が工具を背負って山奥に入る必要がなくなるため、安全性も高まるし作業負担も減る。
実際に東京電力パワーグリッドなどが出資する事業体は今年3月、送電線の点検を目的としたドローンの飛行実験を茨城県で実施。地上高65メートルの鉄塔上空を自動で飛ぶことに成功した。
新たな活用方法も考えられている。送電鉄塔の補修部品などをドローンで輸送する取り組みだ。これらは実証段階とはいえ、そう遠くない将来に実用化に至りそうだ。大型ドローンに工具を搭載すれば鉄塔上空の作業も行えるかもしれない。
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週刊エコノミスト
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