地銀 東証再編が迫る存在意義 漂流する地方銀行の未来 脱炭素、「人財」確保の難題=野崎浩成
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今さら新しい話ではないが、ここ10年で地域銀行(地方銀行・第二地方銀行)の粗利益は15%減少する一方、経費は5%程度の減少にとどまり、損益分岐点を示す経費率(OHR)は6%上昇した。すべてがマイナス金利の責任ではない。わが国の金融の構造変化の影響も無視できない。
中小企業を含む日本企業全体が創造する付加価値について、分配先を金融ステークホルダー(利害関係者)に絞って分析したものが図1だ。前世紀までは、支払利息という形で企業金融の恩恵にあずかってきた銀行であるが、近年は付加価値の出口が株主(配当)と内部留保へと変容した。留保部分も株主に帰属すると考えれば、デット(銀行)からエクイティ(株主)への主役交代は鮮明だ。
この背景には、低金利の影響ばかりでなく、デット(負債)性資金ニーズ減少の影響があるほか、上場企業の株主利益重視の姿勢が考えられる。
今回の地銀9月中間決算を見ても、コロナ対応融資で膨らんだボリューム効果により多少吸収できたものの、利ざやが厳しい状況に変わりはない。また、銀行貸し出しの新規約定金利と残高(ストック)ベースの平均貸出金利の推移については、すう勢的な低下圧力が、なおも続いている。
以上の状況を踏まえたうえで、図2をみると、地銀の苦境が理解できる。これは、本業の収入である業務粗利益の内訳を業態間で比較したものだ。メガバンクなどの主要銀行は資金利益への依存が47%にとどまっているのに対し、地銀は87%と倍近くの依存度となっているのが分かる。
銀行再編が語ること
第4のメガバンク構想や新生銀行に対するTOB(株式公開買い付け)など、SBIホールディングス(HD)による銀行再編への意欲的関与と、東京証券取引所による市場再編は、ある意味で地銀に対する共通したメッセージを含んでいる。
SBIHDについては、銀行持ち株会社を目指すSBI地銀ホールディングスを「地銀のセントラルバンク」のプラットフォームとして位置付け、島根銀行(松江市)などの株式保有の傍らで、新生銀行の機能をそのエンジンとすることを企図していると捉えていいだろう。この「セントラルバンク」は機能提供とガバナンス(企業統治)の両輪を担う。フィンテック(金融とITの融合)やRPA(業務自動化)などのテクノロジー提供、AML(対マネーロンダリング〈資金洗浄〉)を含めた新たなコンプライアンス(法令順守)対応などの業務負担の一方、トップの独断専行を抑制するなどのガバナンスを確保することで、グループとしての企業価値創出をもたらすものでなければ、単なる純投資で終わってしまう。
東証再編の背景の一つに「上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない」ことが挙げられている。上場企業としてのステータスのぬるま湯につかり、自らの機能的な付加価値や使命を見失っている地銀がどれだけあることだろう。
その意味で、SBIHDや東証の与えるメッセージをしっかりと受け止めて、地域の黒衣としての矜持(きょうじ)を再認識しなければ、存在意義を失う。
他方で、機関投資家などが求める株主利益と、各地銀が目指す地域へのコミットメントに乖離(かいり)が出てくれば、ちゅうちょなく非上場化を目指す選択肢もあるはずだ。
脅威のリスト
地銀が今後、直面し得る「脅威」と「機会」について、思うところを取り上げたい。図3のバブルチャートは、私が持っているイメージを視覚化したものである。横軸が時間、縦軸が財務的インパクト、バブルの大きさは可能性の多寡を表している。まず、リスクについての認識を示したい。
第一に、銀行店舗の価値創造…
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週刊エコノミスト
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