国際・政治 世界経済総予測2022
原油、天然ガス市場に“君臨”するロシアの野望=阿部直哉
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ロシア エネルギー市場で増す存在感 「政治的手段」化に米国警戒=阿部直哉
天然ガスや原油価格の高騰を受け、資源大国ロシアのエネルギー市場における存在感が増している。原油市場ではいまや、石油輸出国機構(OPEC)の盟主サウジアラビアと並んで大きな影響力を行使するほか、天然ガスでは欧州や中国へとパイプラインを張り巡らせる。通年の北極海航路開発も急ピッチで進めており、ロシアがエネルギーを「政治的な武器」として用いることに米国の警戒も高まっている。
原油価格の調整を巡ってロシアの影響力が高まる契機となったのは、ロシアを中心とする非OPEC産油国が、OPECとの関係強化を深めたことだ。ロシアは2016年、原油生産でOPECと協調減産に乗り出す姿勢を鮮明にし、OPEC加盟国とロシアなどの非OPEC産油国で構成される「OPECプラス」を組織することで、原油相場の急落に歯止めをかけた。
ロシアはその後、OPECプラスでの主導権を握ろうとする動きが目立つようになった。新型コロナウイルス禍で世界経済が低迷した20年、減産を呼びかけたサウジアラビアをロシアが支持しなかったことは記憶に新しい。21年10月には、減産の緩和を段階的に進めるべきとするロシアの主張が通るなど、OPECプラスでの政策決定でロシアが中心的な役割を演じている。
天然ガス生産についてもロシアの好調さが際立つ。ロシア国営ガスプロムは11月15日、21年1月初旬から11月半ばまでに天然ガスを4450億立方メートル生産したと発表した。前年同期比では15・2%増加しており、特に欧州圏向けが大きく伸びている。例えば、ルーマニア向けが3・5倍となったほか、トルコは98・1%増などで、19・6%増のドイツ、18・3%増のイタリア向けは、すでに20年通年の輸出量を上回っている。
北極海航路も急ピッチ
天然ガス価格の高騰を好機ととらえるロシアは、海外とのエネルギー関係強化に積極的な姿勢をみせる。ガスプロムと仏電力大手のエンジーは11月半ばに首脳会議を開催し、液化天然ガス(LNG)を含め、ロシアからの天然ガス供給について意見交換した。これまでの取り組みを確認し合った後、LNGの果たす役割について多くの時間を割いたとされる。
ハンガリーにも攻勢をかける。同国の大手ガス販売会社「MVM CEエナジー」とガスプロムの子会社である国営ガスプロム・エクスポートは9月末、ロシアからハンガリーへの天然ガス長期供給契約2件を締結した。15年間にわたって年間45億立方メートルを供給する内容で、トルコ経由の天然ガスパイプライン「トルコストリーム」など2本の送ガス管を利用する。
また、LNGなどの輸送手段拡張の一環として、ロシアは北極海航路の開発を急ピッチで進めている。ロシア政府首脳は10月半ば、ロシアが22年または23年に北極海航路の年間を通した航行を開…
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週刊エコノミスト
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