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中国の「極超音速兵器」開発に米国が「衝撃」を受けたワケ=小原凡司

極超音速兵器 中国の実験に米国が「衝撃」 マッハ5の弾頭は防御困難=小原凡司

 2021年11月17日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』の記事は、大きな衝撃をもって受け止められた。中国が今年8月、核弾頭搭載可能な「極超音速ミサイル」の発射実験を行い、地球周回軌道を1周してから目標に向かって飛行させたという内容だ。この事実を米軍制服組のトップも認めたうえで、中国の極超音速兵器の開発が驚異的な進歩を遂げていることに懸念を示した。

 極超音速兵器とは、音速の5倍(マッハ5)以上の速度で飛行する兵器をいい、自ら推進力を持つものと持たないものに大別される。自ら推進力を持つものは、地上、艦艇、航空機などから発射され、燃焼速度が超音速に達する「スクラムジェットエンジン」などを用いて加速し、マッハ5以上の速力を得て飛行する。自ら推進力を持たないものは、例えば弾道ミサイルの弾頭部に搭載されて高高度まで打ち上げられた後、切り離されて落下しながら極超音速に達し、グライダーのように滑空して飛行する。

 今回の中国の実験は、自ら推進力を持たない後者に当たる。極超音速で飛行する際、機体は大気による圧力で高温にさらされるうえ、少しの気流の乱れでも安定を失うため、機体開発には素材や空気力学に基づいた形状の検討など、難しい課題を克服しなければならない。中国の試験発射の成功は、こうした技術的課題を克服したことを示している。

 しかし、米国が驚いた理由の一つは、中国が極超音速兵器を地球周回軌道に乗せてから目標に突入させたことだろう。米ソ両国は冷戦期から極超音速兵器の開発を進めていた。特に米国は、冷戦後、欧州に展開していた米兵力を削減する代わりに、米国本土から地球上のいかなる地域も1時間以内に攻撃できるようにという考え方に基づいて兵器を開発し、極超音速兵器の開発も進んだ。

 また、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭部を地球周回軌道に乗せて地球を周回させて目標に突入させる技術も、冷戦期にソ連が開発していた。ロシアはアバンガルドという極超音速兵器を配備しており、同兵器の開発では米国に対して中露が先行している。

核抑止破綻への「恐れ」

 弾道ミサイルは発射の角度や加速度などから、そのミサイルの目標や到達時間などが計算できる。しかし、一度周回軌道に乗せてしまうと、攻撃側が決定した時期と方向で目標に弾頭部を突入させることができる。また、自ら飛行経路を変えられる極超音速滑空体のような弾頭部であれば、防御側は事前に飛来する方向が分からないうえ、被攻撃目標の特定がより遅くなる。

 弾道ミサイルなどに対する防御システムの能…

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週刊エコノミスト

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