経済・企業

インタビュー:「テクノロジーが格差を拡大させる」  ウォルター・シャイデル(『暴力と不平等の人類史』著者)

ウォルター・シャイデル氏提供
ウォルター・シャイデル氏提供

 <INTERVIEW コロナと不平等>

ウォルター・シャイデル スタンフォード大学教授 「金融緩和で富裕層の資産が増加 テクノロジーが格差を拡大させる」

 人類の歴史を通じて不平等を研究する米スタンフォード大学のウォルター・シャイデル教授。その目に、新型コロナウイルス禍の影響はどう映っているのか。インタビューした。

(聞き手=岩田太郎・在米ジャーナリスト)

── 2017年に刊行した著書『暴力と不平等の人類史』では、人類の歴史上、平等化は(1)戦争、(2)革命、(3)国家崩壊、(4)疫病──という暴力的かつ悲劇的な「四つの騎士」によって達成されてきたと主張しています。現在の新型コロナウイルス禍は、その(4)疫病に当たりますが、平等化には影響したのでしょうか。

■コロナ禍が始まった当初から、「コロナは(14世紀に猛威を振るった)ペストのように格差是正の役割を果たすのか」と質問する多くの取材を受けたが、多くの理由から答えは「ノー」だ。最も重要なのは、これらの過去の壊滅的な疫病と比較して、コロナによる死者が相対的に少なかった幸運があったことだ。これからも死亡数が壊滅的なまでに増える可能性は低い。

── ペストなど疫病の流行は過去、急激な人口減少が労働の価値を相対的に高め、不平等を是正したと指摘しています。

■今回のコロナ禍では、(人口減少が原因ではない)労働力不足が生じたものの、過去の大きな疫病で生じた人手不足の規模とは比較にならない。失業した人々への給付金や、家賃補助、住居立ち退き執行の延期など、これまでにない救済策も打ち出され、さらに金融面で大規模な量的緩和が実行された。これらにより、最悪の経済ショックが回避された。

 また、テクノロジーの進歩により、ウェブ会議を使って仕事ができる恵まれた階層の人たちの多くは失業を逃れられたし、ワクチンがごく短期間で開発された。これらの多くは20年前であれば可能ではなかっただろう。つまり、われわれの疫病対処能力が改善されていたタイミングでコロナが襲い掛かってきたのだ。そのため、コロナ禍は過去の疫病ほど壊滅的なものにならず、同時に格差是正効果も薄くなっている。

「超富豪」が米国で出現

── 米国での不平等の現状は?

■富の格差と収入の格差に分けて考える必要がある。コロナの出現以前から、収入の格差はわずかではあるが縮小を始めていた。パンデミック(疫病の世界的大流行)の間は、各種のコロナ対策補助金などで低所得層の収入増加率が他のグループよりも相対的に大きかったため、収入面における不平等は圧縮されていた。この傾向がいつまでも続くとは限らないが。

 富の不平等については、まだ最終的な統計が得られていないものの、格差が拡大したであろうとの予測がなされている。緩和的な金融政策により、投資を行える裕福な人々の資産の価格がさらに上昇したからだ。

── テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)や、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏ら、米国には個人資産が1000億ドル(約11兆円)を超すような超富豪が続々と生まれています。

■テクノロジーが彼らをより富む者にしたことは事実だ。ここシリコンバレーでは、テクノロジー関係者が「テクノロジーは不平等を緩和する」と言っている。実際にテクノロジーがもたらす情報により、格差が縮小することもありうるかもしれない。その一方で、(金融サービスと情報技術を結びつけた革新である)フィンテックなどの発展により、富む者がさらに富み、格差が拡大する面もある。

 テクノロジーは1980年代ごろから進行中の格差拡大の要素の一つであり、所得のト…

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