経済・企業 人口の経済学
人口減対策の鍵は女性の高度人材活用=藤波 匠・日本総合研究所上席主任研究員
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大卒率は男女同水準 大都市に流入する女性高度人材 キャリア生かせる職場作れるか=藤波匠
2020年の統計データを見ると、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、「東京圏」(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の転入超過数は、男女とも大きく減少した。感染の完全終息が見通せない中で、しばらくは人口移動の方向感がつかめない状況が続きそうだが、一方で、「コロナ禍後」(アフターコロナ)の状況になれば、女性の東京圏へのより一層の流入が加速しそうだ。
女性転入増加
統計データを分析すると、10年以降、東京圏の転入超過数は女性が男性を上回って推移している。この傾向はコロナ禍の状況にあっても変わっていない(図1)。緊急事態宣言が発令された20年4月以降の1年間の数値を見ると、男性よりも女性の東京圏流入の方がやや下げ渋る傾向が見られる。15年から19年の平均では、東京圏の転入超過数は男性1に対して、女性は1・31だったが、20年4月以降の1年間は、女性が1・37と微増になっている。
コロナ禍により、東京圏の転入超過数は総数としては大きく減ったものの、女性の方が男性よりも比較的堅調に転入超過数が推移している。その背景には女性に対する雇用形態の変化がある。コロナ禍の雇用の増減を、男女別、正規・非正規別の四つのカテゴリーに分けると、女性は非正規雇用が大きく減少する中で、正規雇用は比較的堅調に推移している(図2)。
女性の非正規雇用の減少分を正規雇用がカバーするには至っていないため、「女性の雇用が失われた」という報道に誤りはないが、あくまで数字の上では、非正規から正規への転換が進んだことになる。一方で、男性は同期間のデータを見ると、正規、非正規雇用ともに減少している。
高度人材採用は女性
では、どこで、どのような企業が、女性の正規雇用を増やしているのか。増えた女性の正規雇用を地域別に見ると、東京都をはじめ大都市で増えている。東京圏は、日本全体で増加した女性の正規雇用の約半数を占めているが、大半の地方圏は厳しい状況で、とりわけ中国地方では女性の正規雇用が減少している。
どのような企業が女性を正規雇用しているのか。産業別に女性の正規雇用数を見ると、コロナ禍ということもあり、半数が「医療・介護」だ。これは納得できる数字だが、残りの半分は情報産業、金融・保険、学術サービスなどで女性の正規雇用が増えていることが注目される。
東京都など大都市に拠点を置く一部の企業では、社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応を急いで、女性を積極的に採用している。おそらく、意図して男女の採用を分けているわけではないが、男性がすでに完全雇用に近い水準にあることを踏まえれば、採用の目標が「高度人材の女性」に向くのは自然な動きとも考えられる。大手企業を中心に、高度人材の採用に積極的な企業が東京に集積しているため、女性の東京圏への流入は底堅く推移していると考えられる。
男女同水準
企業が女性を積極的に正規雇用するのは、企業の人材戦略によるものだが、背景には女性の高度人材化もある。1980年代に10%程度だった女性の4…
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週刊エコノミスト
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