投資・運用

名門時計メーカーを次々買収する高級ブランド帝国の狙い=長沢伸也

    IWCシャフハウゼンの「インヂュニア」 筆者所有モデルのカタログから転載
    IWCシャフハウゼンの「インヂュニア」 筆者所有モデルのカタログから転載

    ブルガリも、ティファニーも 4大グループに集約が進む ラグジュアリーの「核心」に=長沢伸也

     衣料品や宝飾、時計などの高級ブランド品を販売するコングロマリット(複合企業)グループの業績が好調だ。同分野の世界最大手、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの2021年1~9月期の売上高は前年同期比45%増の441億ユーロ(約5兆6000億円)で、「カルティエ」などを傘下に置くスイスのリシュモン・グループの21年4~9月期も同62%増の89億ユーロだった。

     コロナ禍からの顕著な回復を示す両グループの好業績を支えるのが時計事業だ。LVMHでは、時計・宝飾品の増収率は21年1~9月期で49%と、ファッション・皮革製品(57%)に次ぐ高い伸び率を示した。リシュモンの時計部門の増収率は74%。時計専業に近いスイスのスウォッチグループの21年1~6月期売上高も同54・4%増の34億ユーロだった。

     この3グループ傘下のブランドに、独立系のロレックス、パテックフィリップといったスイス勢と、ユリス・ナルダンなどを傘下に置く仏ケリング・グループを加えると、世界の主要な高級時計ブランドのほとんどが網羅される(表の拡大はこちら)。独立系を除くと各時計メーカーは、4大ブランド帝国に相次いで買収されてきた。

    精巧極めた「工芸品」

     LVMHなどはなぜ時計メーカーを次々と買収してきたのか。衣料や皮革製品など多岐にわたる高級品のジャンルの中でも、機械式時計は、感性に訴えかける価値がとりわけ高い分野であることがその理由だと考えている。

     最高級ブランドのパテックフィリップやA・ランゲ&ゾーネなどの「作品」を手にすれば魅力を実感するはずだ。ガラス張りの裏蓋(うらぶた)から精巧さを極めた機械の動きが見える「シースルーバック」や、工芸品そのものといった装飾が施された文字盤や針などのたたずまいが、人々を魅了してやまない磁力を放っている。

     女性が好む宝飾や香水などと比較すると、腕時計は男性の関心が高い領域である。長い歴史を持つ名門時計を傘下に収めることで、高級ブランドグループとしての「格」の向上にも資すると考えたのだろう。

     被買収側にも傘下に入るメリットがある。高級ブランド事業の継続には資本が要るからだ。利益が積み上がってから、ニューヨーク五番街、パリ・シャンゼリゼ通り、東京・銀座などの目抜き通りに旗艦店舗を出すなどと悠長な構えでいたら、世界の富裕層に財布のひもを緩めさせるための熾烈(しれつ)な市場競争に加わることができない。

     11年3月にイタリアの名門宝飾・時計メーカーのブルガリがLVMHに買収(形式上は株式交換)されたが、このニュースには「ブルガリの規模でも独立経営の維持は難しいのか」と驚いた。ブルガリは買収された後に、八角形のケースに収められた機械式の傑作時計「オクト」を発売。LVMHの傘下に入ったことで時計メーカーとしての存在感を増している。

     LVMHは21年1月に米宝飾大手ティファニーも買収しており、今後は従来、手薄だったティファニーの時計事業をてこ入れする可能性が高いとみている。

    比較せずとも選ばれる

     多数のブランドを束ねるコングロマリットにはそれぞれ特徴がある。宝飾・時計事業の比率ではリシュモンが全体の売上高の76%と中核であるのに対して、衣料品・皮革製品、酒類、化粧品など事業範囲が広いLVMHでは14%にとどまる。LVMHは、仏経済紙『レゼコー』や日刊紙『ル・パリジャン』を買収するなどメディア事業にも進出しており、高級品事業にとどまらず、一大経済グループを形成している。

     スウォッチは売上高…

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