経済・企業 機械式時計の世界
高級感にはストーリーが必要、したたかなスイス時計産業=ドンゼ大阪大学大学院教授インタビュー
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ピエール・イブ・ドンゼ 大阪大学大学院経済学研究科教授
<INTERVIEW>
「スイス時計産業の強さの秘密はストーリーを“作る”戦略にある」
時計産業史に詳しいスイス人研究者に、母国の花形産業の実情を聞いた。
(聞き手=浜田健太郎・編集部)
── スイス製時計の輸出が好調だ。
■理由は二つある。一つは中国人による購買が爆発的に増えたことだ。2000年に4500万スイスフラン(約57億円)だった中国向けのスイス時計の輸出金額が、20年には53倍の24億スイスフラン(約3000億円)にも増えた。輸出だけではなく、中国人観光客が世界各地に旅行してそこで買う金額も大きい。その押し上げ効果もあり、00年から新型コロナウイルス禍前の19年にスイス製時計の輸出金額は2倍に増えた。もう一つの要因は、経済格差の拡大だ。富裕層がより豊かになる傾向が顕著になったことが影響している。
時計販売が好調な理由は、メーカー側にとっての外部要因だけではない。メーカー側は金額を高く設定して、わざわざ販売量を少なくする戦略を採っている。「リシャール・ミル」「オーデマピゲ」「パテックフィリップ」などが該当し買う側は「いつかは欲しい」という渇望感が高まっていく。
「超高級品」が台頭
── 高級な機械式時計は大量生産できない印象があるが、実際はどうか。
■作れるはずだ。ある高級メーカーの社長にインタビューした際は、「我々は職人集団だからたくさんは作ることができない」と答えていたが、過去20年間で作る量は増えている。スイスのメーカーは常にストーリーを作る。雑誌やネットでの社長インタビューの発言の全てを信じないほうがいい。
── 高級ブランドはどこも歴史を強調する。
■実際に起きた出来事を取捨選択して、ヘリテージ(遺産)にする。「オメガ」は170年以上、イノベーションを続けてきた企業だと強調する。人類が初めて月面着陸したときに装着されていたし、オリンピックでの公式スポンサーを長年続けて、競技の計測に使われた。同じスウォッチグループの「ロンジン」も、かつてはオリンピックの競技で計測していたが、いまはスタッフが五輪について話をするのは…
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週刊エコノミスト
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