経済・企業 とことん学ぶインフレ
下手を打てば日本はデフレ経済に逆戻り 国内物価の現状を読み解く3指標=森永康平
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基本を押さえる1 インフレ指標 国内物価の今を読み解く 外せない「三つの物差し」=森永康平
インフレはもはや世界的な問題といっても差し支えない状況だ。米国の2021年11月の消費者物価指数は前年同月比プラス6・8%と39年ぶり、ドイツの21年11月の消費者物価指数も同プラス5・2%と約30年ぶりの上昇幅を記録した。
消費者物価指数
モノの値段が継続的に上昇することをインフレというが、モノの値段をモニタリングする際に参照する経済指標が「消費者物価指数(CPI)」(図1)だ。日本では総務省が毎月1回発表しており、食品、光熱・水道、家具・家事用品など、全国の世帯が購入する家計にかかわるモノやサービス(全588品目)の価格推移が前年同月と比較してどれぐらい変化したかという比率を表す。
また、CPIには三つの指標が存在する。(1)三つの品目全体の変化率を表す「総合」、(2)天候要因で価格が大きく変動しやすい生鮮食品を除いた「生鮮食品を除く総合」(コアCPI)、(3)さらに地政学リスクや投機資金の影響で価格が変動しやすいエネルギー価格を除いた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」(コアコアCPI)──だ。物価の趨勢(すうせい)を確認する際はコアコアCPIの数字を見ることが一般的である。
日本の21年11月のCPIを見てみると、コアコアCPIは前年同月比マイナス0・6%となっており、日本は世界的なインフレとは無縁のように見える。しかし、消費者物価指数を見る際は、ミスリードを防ぐためにも内訳の個別品目のデータまで確認すべきだ。
例えば、菅義偉政権時に21年4月以降の携帯電話の通信料が大幅に値下げされたが、その後も断続的に値下げが行われた。これによって日本のCPIは、実態よりも弱くデータが表れてしまっているのだ。実際に携帯電話の通信料の引き下げがなければ、CPIは発表されている値よりも1・5%ほどは高くなっていただろう。
また、CPIは価格調査の対象商品が決まっているため、実際に消費者が売買しているモノの値段よりも高めに出ている可能性が高いという欠点を指摘しておきたい。実生活においてはネット上で価格を比較し、最安値で購入する消費者も多いからだ。このように旧来的な調査方法では、実態と乖離(かいり)してしまう。
海外ではこれを補うため、「オルタナティブデータ」と呼ばれるさまざまなデータ(ニュース、クレジットカード決済情報のような非開示データなど)を導入して経済指標の精度を高めようとする試みが行われている。
米国の労働省は19年3月のCPIから、店頭やネット通販の価格など従来の手段で集めてきたデータの一部について、企業が提供する情報に置換し始めている。また、オーストラリアやデンマークはスキャナーデータ(POSデータ)などを活用しており、中国でもインターネット上での購入価格を反映している…
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週刊エコノミスト
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