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日本でも人気のスコッチウイスキーが脱炭素? 蒸留所が水素の再エネを燃料に生まれ変わる
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スコッチウイスキーも脱炭素化 水素や再エネを蒸留所の燃料に=野村宗訓
ウイスキー蒸留所が集まっていることで世界的に有名な英国スコットランド地方(図1)。蒸気機関の発明者ジェームズ・ワットや経済学の父と呼ばれるアダム・スミスの出身地としても広く知られる。
スコッチウイスキーは日本でも人気が高まっている。国内の消費量は年々増加傾向にある。また、近年では「家飲み」需要を見込んだ増産や輸出を視野に入れて生産を開始している参入者もみられる。ハイボールの流行に加えて、2014年9月〜15年3月に放送されたNHK連続テレビ小説「マッサン」の影響からウイスキー愛好家が増えてきたことも背景にある。
窮地に追い込まれた業界
グラスゴーで昨年11月に「COP26」(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が開催された。50年に炭素排出量ネットゼロを実現する方策が検討された結果、石炭火力発電所を段階的に削減する方針などが示された。脱炭素化の潮流はウイスキーも無縁ではない。スコッチウイスキー産業は業界を挙げて対応する姿勢を示している。
スコットランドには五つの地域(スペイサイド、ハイランド、ローランド、アイラ、キャンベルタウン)に約140の蒸留所が存在する。雇用者数は約1万人だが、そのほとんどが地方に集中している。原料の大麦生産や流通・小売り部門を含めると英国全体で4万人を超える。伝統とブランド力のお陰で輸出にも貢献している点で、ウイスキー産業の重要性は高い。
しかし、ブレグジット(英国のEU離脱)により輸出条件の交渉が混乱しているところに、新型コロナの悪影響が重なった。ロックダウン(都市封鎖)によって多数のパブ・飲食店が閉鎖されたことに加え、空港内の免税店も休業する状況下で売上高は伸び悩んでいる。SWA(スコッチウイスキー協会)によると輸出額は、20年に前年度比で23%も下落した。
主要な輸出先は欧州連合(EU)域内、アジア・オセアニア、北米だが、輸出額でみた20年のトップ10には米、仏、シンガポール、台湾、ラトビア、独、日本、豪、スペイン、中国が入る(図2)。この内、前年比でプラス成長しているのはラトビアと中国だけである。輸出量ではインド、ブラジル、メキシコ、ポーランドなども上位に入る。ウイスキーは食品・飲料の輸出額の約20%にも達する点から、軽視できない商品になっている。
ウイスキーは加熱・蒸留過程で化石燃料を使うため、脱炭素化に取り組む必要がある。昨年1月に英国政府からウイスキー業界の脱炭素化に1000万ポンドを充てる構想が発表され、すでに17の蒸留所に約100万ポンドが支援された。コンサルタント会社がまとめた報告書「スコッチウイスキー・パスウェイ・トゥ・ネットゼロ」に基づき、燃料をバイオや地熱、水素に転換する措置が進展している。
さらに、政府の「北スコットランド水素計画」に…
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週刊エコノミスト
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