経済・企業

史上初! 東証再編で経営陣が企業価値向上に「コミット」した意味=明田雅昭

117社が時価総額1.5倍増必要 プライム維持へ「約束」の重み=明田雅昭

適合計画書を斬る

 東京証券取引所が昨年7月、東証1部上場企業のうち664社に対して「プライム市場」の上場維持基準に未適合と通知した。これに対し、どの企業が適合計画書を提出してプライム市場を選択するのか、どの企業がスタンダード市場を選択するのかに関心が集まった。だが、筆者は各社がどのような内容で適時開示を行うかに注目していた。なぜならば、今まで機関投資家との接触機会がほとんどなかった企業が、重大な選択結果の公表を通して、彼らの株式市場への向き合い方が明らかになる数少ない機会だと考えたからである。

 今年1月11日の東証の発表によると、東証1部上場企業のうち未適合でプライム市場を選択したのは296社で(図1)、特に流通株式時価総額の基準に未適合となったのが217社と他の基準に比べて圧倒的に多い。つまり、適合に向けて取り組む施策の中心的課題は、流通株式時価総額の増大にあるといえよう。

 流通株式時価総額を2倍以上にする必要がある企業は217社の中で65社と30%を占め、1・5倍以上が必要となると、217社のうち117社と54%もの企業が該当する。各社の経営陣は期限付きで、この倍数目標の達成を約束したことになる。そこで、流通株式比率の改善分を考慮した後、株式時価総額の年率値上がり率を目標期限別に計算してみた(図2)。この結果を見ると、年率20%以上の値上がり率が必要な企業は26%を占めている。

 2015年に始まった企業統治改革において、これまで各企業は、改革の本丸である「中長期的な企業価値の向上」を枕ことばとして使うだけで、独立取締役の人数など、本丸を取り囲む外堀の基準を何とか形式的にでも達成しようときゅうきゅうとしてきたように思われる。今回の東証再編に伴う適合計画の作成は、日本史上初めて、200社以上の経営陣が「企業価値の向上」に関して、数値を伴ったコミットメントをしたという点で、大きな意義がある。

資本コストに言及なし

 株式時価総額を高める施策の効果測定で多くの企業が用いているのが「PER」(株価収益率)だ。「株式時価総額=PER×純利益」なので、自社の中期経営計画の目標期限における純利益に、現在の自社のPERあるいは業界平均PERを掛け算して、将来の株式時価総額の根拠としている。PERは資本構成や成長率の変化で値が変わるが、そうした点を考慮している企業はほとんどない。

 東証のコーポレートガバナンス・コードの原則「5・2」では、自社の資本コスト(WACC=株主資本と借入金のコストの加重平均)を的確に把…

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週刊エコノミスト

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