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税理士と会計士が職域の「縄張り争い」をしている場合ではないワケ=磯山友幸
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会計士、弁護士、税理士 積年の職域「縄張り争い」=磯山友幸
<第2部 会計士 税理士 ミライとリアル>
「最近、転職市場で求められている人材は、DX、SDGs、そしてCFOです」。幹部人材サーチ大手「ハイドリック・アンド・ストラグルズ」の渡辺紀子パートナーはこう語る。
DXは言うまでもなく、デジタル化で業務を根本から見直す「デジタルトランスフォーメーション」を統括できる人材。SDGsは国際的に大きな課題になっている環境問題や人権問題などに対応した危機管理や情報開示、社内体制の見直しを主導できる人材。そして最もホットなのが、資本政策をつかさどり、会社の成長に向けて株式上場などを計画する戦略的CFO、つまり「高度会計人材」なのだという。
今やベンチャー企業経営者にとっては、株式公開することで一気に会社の成長を目指すのが当たり前になった。そのためには、M&A(合併・買収)などの知見も必要になる。いわゆる「経理」にとどまらず、専門性の高い会計・財務の戦略を練り、実行していける人材は多くない。
そうした状況の中で、ヘッドハントして優秀な人材をCFOに据えたいという企業からのニーズが高まっている。
会計士 志望者が増加
そんな新たな「市場」ができあがってきたためか。ここ数年、公認会計士を目指す人が増え続けている。一時は受験者が激減していた公認会計士試験だが、2015年の1万180人を底に願書提出者が増え、21年は1万4192人と6年連続で増加した。
「以前は試験に合格したら監査法人で一生働くのが当たり前だったが、今や資格保有者は企業などさまざまな分野で求められるようになった。確実に生かせる資格として見直されているのではないか」と、日本公認会計士協会の会長も務めた増田宏一氏はみる。M&Aコンサルティング会社などが学生の人気職種になっている中で、会計士が「強い資格」として意識されるようになったのだろう。
さらに、「会計士はきちんと勉強していれば必ず取れる資格だという意識が広がったことが受験者増につながった」とみるのは、大手資格予備校の関係者だ。それには「前史」を説明する必要がある。
◆試験厳格化で激減
00年代の制度改革の中で、会計士などの専門家を増やすという国の方針が出され、会計士試験でも大量の合格者を出した時代があった。07年には4041人が合格、合格率は19・3%に達した。05年くらいまでは合格率は8%台だったから、「やさしくなった」試験に受験者が殺到したのだ。10年には2万5648人が願書を出した。
ところが、悪いことに、そのタイミングでリーマン・ショックが起き、日本経済は一気に縮小した。それまで大量採用していた監査法人が合格者を吸収できない事態に直面したのだ。同協会の要望などもあり、政府は今度は試験を厳格化する方向に転換。合格率は11年に6・5%にまで落ちた。その結果、「勉強しても受かるかどうか分からない難関試験で、しかも監査法人には就職できない」という意識が広がり、受験者の激減につながっていった。その状況がこの6年で大きく変わってきた、というのだ。
千葉商科大学の渡辺圭准教授は「きちんと勉強をすれば会計士は2年で合格できる。20年にはうちの大学の現役学生も合格した」と語る。同大学では会計士や税理士を目指す学生向けに簿記試験などの特訓講座を実施する「瑞穂会」という教育組織を設けており、毎年300人以上の学生が所属。渡辺准教授はその中核を担う。入り口ともいえる「日商簿記1級」の合格率(昨年は17・7%)は全国平均(同10・2%)を大きく上回っているという。
さらに、「税理士の場合、1科目ごとに受験するスタイルが一般的のため、合格まで4年以上かかる人が多い」(渡辺准教授)というのも、会計士資格に挑戦する学生が増えている理由だという。
弁護士 人気が凋落
一方で…
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