経済・企業

監査法人「ビッグ4」の財務を徹底解剖 監査報酬値上げは奏功しているが、IT投資負担はまだ増える=伊藤歩

システム投資は今後も Bloomberg
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会計士 「ビッグ4」解剖 監査報酬は単価上昇も のしかかるIT投資費=伊藤歩

 大幅な監査報酬の値上げを要求し、監査先が受け入れないことはあたかも想定内であるかのように、さっさと監査契約の更新を辞退し撤収していく大手監査法人。監査報酬値上げの理由は「利益確保のため」だ。

 上場会社にとって、監査法人が交代する負担は大きい。新たな監査法人を探すだけでも負担だが、首尾よく候補を探せたとしても、事業内容や当該企業に合った会計処理、業界の商慣習など、一から説明し理解してもらい、過年度の情報を共有するには相応の時間がかかる。

 そんな上場会社の事情に頓着することなく、「こんな低い報酬ではやってられない」「おたくの会社に人は割けない」と言って監査法人は去っていく。10年前ならば考えられなかった対応だ。上場会社監査の7割を担う4大監査法人が、上場会社監査を縮小する影響は大きい。いま、監査法人の収益は一体どれほど苦しいのだろうか。

 そこで、開示資料を基に4大監査法人の財務状況の分析を試みた。上場会社の監査を手掛ける監査法人のうち有限責任形態の監査法人には財務諸表の開示義務がある。分析は、その財務資料を基にしている。

 有限責任形態の監査法人とは、監査業務に絡んで損害賠償責任を負った場合、社員(出資者の公認会計士)全員ではなく、担当公認会計士だけが賠償責任を負う形態だ。

 4大監査法人のうち、EY新日本有限責任監査法人(新日本)は2008年7月、有限責任監査法人トーマツ(トーマツ)は09年7月、有限責任あずさ監査法人(あずさ)は10年7月、PwCあらた有限責任監査法人(あらた)は16年7月に有限責任形態に移行している。

 このため、分析対象期間は4法人の比較が可能な11年度(トーマツのみ12年9月期、それ以外は12年6月期)からとした。あらたは財務諸表の開示がない16年度以前は、同法人の事業報告書の記載数値で集計した。

 監査法人の財務諸表は株式会社のものとよく似ているが、会計処理の方法が若干異なる。売上総利益の概念がなく、社員の退職時には出資した資本金を返還するので資本金残高の変動が激しい。社員の報酬・賞与(株式会社の役員報酬・賞与に該当)も業務費用で処理され、営業利益に影響する。

 さすがに配当は利益処分から払うが、受け取るのが社員なので、財務状況が厳しい年は社員の手取り報酬の一部を配当で支払う。赤字決算を組むと官公庁関連の監査業務を請け負えなくなるので、この方法を取るのだが、合法的な処理だ。

トーマツが収入首位

 直近の20年度(トーマツのみ21年5月期、他は21年6月期)の業務収入ではトーマツがトップ(図1)。決算期を変更し、8カ月の変則決算となった16年度(17年5月期)に実質トップに立ったが、17年度以降は名実ともに4年連続の首位だ。

 あずさの2位、かつて首位だった新日本の3位も定着した感がある。新日本の3位定着には、東芝の不正会計問題で有力な監査先が他の監査法人に流出したほか、18年6月にIT監査業務をグループ会社に移管したことも影響している。

 あらたは、業務収入に限らずあらゆる数値が他の3法人に比べて小さい。カネボウの粉飾事件が発端となって消滅した中央青山監査法人から、少数の選りすぐりの優良クライアントを持って独立しているためである。

 直近ではトーマツだけが前年比7・9%の伸びで、他の3法人はほぼ横ばいだ。トーマツは監査業務では2・8%の伸びにとどまったが、非監査業務で2割伸びていることが全体の収益を底上げした。

 あずさと新日本、あらたは全体では横ばいだったが、いずれも非監査業務の減収を、監査業務の増収で補っている。監査・非監査の別では、あらた以外は監査業務の収入が多くを占める(図2)

 次にクライアント1社当たりの業務収入を見てみると、監査業務は4法人いずれも上昇しており、監査報酬の値上げ要請が奏効していることが分かる(図3)。ただ、非監査業務については、単価が上がっているのはトーマツのみ。新日本は横ばい、あずさとあらたは微減だ。

新日本もIT投資多く

 次に営業利益はどうか。第一印象では、ケタが一つ小さい新日本の水準の低さが目立つが、前述の通り、社員の人件費を配当で払うか業務費用で払うかで営業利益は変動してしまう。そのせいか、時系列で見ると各法人ともに変動が…

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週刊エコノミスト

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