ECB 3月理事会で政策修正に着手もマイナス金利解除にハードル=土田陽介
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欧州中央銀行(ECB)は2月3日に年明け最初の理事会を開催した。主要政策金利を据え置く決定内容は昨年12月から変更がなかったものの、理事会後の会見の際のラガルド総裁の発言が話題を呼んでいる。それまでのハト派姿勢を転換し、タカ派色を鮮明にしたからだ。
以前のラガルド氏は、2022年内の利上げ観測をけん制し続けてきた。ユーロ圏の消費者物価も上昇の加速が鮮明だが(図1)、ECBはあくまで一時的な現象という立場を強調してきた。今年の後半になれば物価はディスインフレ(物価上昇率の低下)が進み、ECBの物価目標値である2%に近づくと説明してきた。
しかし、今回の理事会後の会見でラガルド氏は、年内の利上げの有無について記者に問われた際に「確証のない公約はしない」と回答し、「データに基づいて評価する」と発言。そのうえで、次回3月10日の理事会の際にも政策修正に着手する可能性に言及した。
米連邦準備制度理事会(FRB)は年内に複数回の利上げを行うと示唆しており、市場関係者からは4、5回またはそれ以上の利上げを行うとの観測が上がっている。英中央銀行のイングランド銀行(BOE)は、昨年12月に利上げ(0・1%→0・25%)を実施し、今年2月には追加利上げ(0・25%→0・5%)を行った。FRBやBOEは物価が高止まりするという見解に立つが、ECBもこの流れに合流したと言えよう。
イタリアなどに配慮必要
とはいえ、ECBの場合、FRBやBOEにはない二つの大きなハードルが立ちはだかる。マイナス金利の解除という技術的な問題と、ユーロ圏内における信用不安への配慮という政治的な問題だ。
ECBの政策金利には(1)上限金利(限界貸し出しファシリティー金利、現在0・25%)、(2)主要金利(定例買いオペの最低応札金利、同0・00%)、(3)下限金利(中銀預金金利、同マイナス0・50%)の三つがある。もともと銀行間金利は主要金利を基に決まっていたが、マイナス金利導入後は下限金利がベンチマーク(指標)だ。
下限金利は2019年9月以降、マイナス0・50%で据え置かれているが、ECBが利上げをする場合、マイナス幅をどう圧縮するかが最大の焦点となる。これまでECBは、金融市場への配慮からマイナス金利を0・10%ずつ引き下げてきた。利上げもそうしたテンポで行われるべきだが、インフレとの兼ね合いだと0・25%程度の幅でなければインパクトに欠ける。
他方で、信用不安への配慮という問題がある。ECBはその機能を否定しているが、ECBはイタリアやギリシャといった重債務国の金利の安定を重視せざるを得ない宿命を持つ。ECBが20年3月に導入し、7500億ユーロ(約90兆円)の資産を購入する「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」も、実態は長期金利が急騰していたイタリアを救済するための措置だった(図2)。
そ…
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週刊エコノミスト
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