米国株 高PER銘柄に下落余地も2022年中の悲観は時期尚早=荒武秀至
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<第2部 マーケット編>
2022年は年初から米国株相場が急落した。1月27日の安値までの年初来騰落率でみると、米国を代表するS&P500株価指数は9・2%下落、ハイテク銘柄が多いナスダック総合指数は14・6%下落した。
きっかけは米連邦準備制度理事会(FRB)による急激な金融引き締めへの警戒が強まったことだ。昨年夏にはインフレは一過性と判断し超金融緩和を続ける姿勢であったFRBだが、11月末の議会証言でパウエルFRB議長がインフレ本格化のリスクに言及し、早期の引き締め転換を示唆した。その後も12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)と1月に公表された議事録を通じて、FRBの“タカ派”急旋回が明らかとなった。
タカ派色を強めるFRBを警戒した市場は、急激な金融引き締めが株下落に直結するリスクを訴えるべく、1月25~26日のFOMCに向けて株売りを進めることでFRBに翻意を促した。だが、パウエル議長は会合後の記者会見で、今後の毎会合での利上げや3月0・5%幅の利上げの可能性を否定しなかったことから、翌27日にかけさらなる株安が進んだ。
また、切迫するロシア軍によるウクライナ侵攻、米企業の21年10~12月期決算の悪化懸念、オミクロン株の拡大など悪材料が重なったことも株安を加速させた。
ガソリンや食品の値上がりが市民生活を直撃する中、ウクライナ侵攻で一段の天然ガス・原油価格高騰が懸念される状況や、新型コロナの感染拡大に伴う供給制約がインフレを加速させ、インフレと景気悪化が同時進行する「スタグフレーション」を招きかねない環境に株式市場は身構えた。米国の景況感を表す購買担当者景気指数(PMI)をみると、今年1月は製造業、非製造業ともに前月より低下しており、株安による景気下押しという悪循環も懸念される。
政策総動員が株高を演出
株価が上昇しやすい環境は「カネ余りと緩やかな景気拡大」である。超金融緩和が続くと余剰資金があふれ、マネーは株式や不動産などの資産市場へ向かいやすい。また、企業が含み益を抱え、資産効果が経済を押し上げるので景気拡大にもつながる。
20年のコロナ禍で総動員された財政・金融政策が典型例で、米国はコロナ対策として国内総生産(GDP)比3割弱に上る財政出動を行い、またFRBはゼロ金利政策や資産購入という超金融緩和に踏み切った。これが株高をもたらし、S&P500は20年に16・3%、21年に26・9%上昇した。また、ナスダック総合も20年43・6%、21年21・4%の伸びであった。だが、潮目は変わりつつある。
FRBは完全雇用と物価安定という二つの政策目標を負っている。手厚い政策対応が奏功し、1月の米失業率は4・0%とFRB長期目標の4・0%を回復して完全雇用を達成したが、もう一つの目標である物価安定に関しては程遠い状況にある。
2%のインフレ目標に対し、今年1月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比7・5%、21年12月のPCE(個人消費支出)デフレーターは同5・8%と目標を大幅に上回る。FRBが3月央まで続けるゼロ金利政策と資産購入による量的緩和は、明らかに足元のインフレ高進とは不整合で、政策が後手に回っているとの批判を受けかねない。
そのため性急な引き締め転換が必要で、3月央には資産購入を終了、3月15~16日のFOMCで利上げを開始し、5月FOMCでは資産縮小(量的引き締め、QT)を決定する見通しだ。インフレ抑制に見合う水準まで現行政策を修正すべく、3月FOMCでの0・5%利上げや、3月に続く5月会合でも利上げする可能性もあるだろう。株式市場はこうした急激なタカ派転換を警戒している。
本格引き締めは23年以降
ただ重要な点は、今年はコロナ対応の超金融緩和から中立へ金融政策を戻す段階にあることだ。株式市場に逆風となるのは、中立から引き締め…
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週刊エコノミスト
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