米長期金利 年末に1%台後半へ低下か 「長短逆転」の格言を一蹴=杉山修司
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米国景気は過熱しており、約40年ぶりの物価高に直面している。こうした物価高に対し、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長の参謀役であるウォラー理事は1月13日、米ブルームバーグとのインタビューで、今後の利上げのシナリオを示唆している。
すなわち、夏までに3回政策金利引き上げを行い、年後半は利上げしない基本シナリオと、3回の利上げ効果を見極めて年末時点の物価見通しを再点検し、物価高の改善が不十分な見通しとなれば年後半に追加利上げを2回、つまり計5回利上げするリスクシナリオである。利上げ幅は0・25%ずつで、市場をかく乱する0・5%利上げはしないという。
世界各国の債券投資家が、インフレ高進に伴う債券の実質価値の目減りを回避するため、ポートフォリオ保有銘柄の入れ替え売却を順次進め、国債利回りが上昇(債券価格は下落)している。米国債10年物利回り(長期金利)は2月10日、2%の大台を2年半ぶりに突破した。
だが、過去30年間続く長期金利の低下トレンドを振り返ると、2%台前半を底値と見て安値買いの好機と待ち構える債券投資家は多いとみられ、米長期金利の上昇はいったんピークを付けそうだ(図1)。
加えて、次回3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが開始されれば、債券投資家のインフレ高進への警戒レベルがある程度低下するとみられ、長め年限の米国債を積極的に買い支える原動力に転じると考えられる。
今夏の判断で再上昇も
パウエル議長は「ドイツや日本などより高い米国債利回りを求める海外投資資金の流入が、長期金利など長めゾーン金利の低下圧力となっている」(昨年12月15日のFOMC後の記者会見)と述べている通り、米長期金利は低下傾向を強め、年末にかけおおむね1%台後半で推移しそうだ。
もっとも、夏の時点でFRBがリスクシナリオの公算が高まったと判断すれば、債券投資家のインフレ高進への警戒レベルは再び上昇し、年末にかけ長期金利は一時的に2%台半ばへ再度上昇する局面もあるだろう。
パウエル議長は昨夏、「忍耐強い金融緩和の継続」論者であるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁の考え方を離れ、早期利上げ論者のウォラー理事がパウエル議長の新たな参謀役となった模様だ。こうした姿勢転換が道を開き、パウエル議長は今年2月に再任された。物価高への国民の不満に直面するバイデン大統領が、今秋の中間選挙までに支持率低迷を挽回したいためである。
パウエル議長の早期利上げへの姿勢転換により、米2年物国債など短い年限で利回りが急上昇した。このためイールドカーブ(利回り曲線)のフラット化(平坦(へいたん)化)、すなわち短い年限で金利が上昇し、長い年限で金利上昇が相対的に抑制される傾向がこの半年間、強まっている。
急騰する2年債金利
とりわけ、今年1月26日のFOMC後の記者会見で、パウエル議長は賃金上昇の…
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週刊エコノミスト
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