米国経済 資産価格下落で消費を下押し 利上げで高まる減速リスク=鈴木将之
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インフレに直面する米連邦準備制度理事会(FRB)が、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切る見通しとなった。もちろん、利上げに踏み切る背景には、米国の実体経済の回復という前提がある。しかし、利上げは、一般的に景気を減速させる。そこで、米国経済の現状を踏まえ、国内総生産(GDP)を構成する需要項目ごとに、利上げによる実体経済へのリスクについて考えてみたい。
まず、米国のGDPの7割近い比率の個人消費への影響についてだが、新型コロナウイルス感染拡大後の回復局面で、政府による給付金の支給やコロナ禍で抑制した消費の繰り延べもあって、小売売上高は感染拡大前を大きく上回っていた。個人消費は総じて堅調で、輸入の急増や供給網の目詰まりを起こすほどだった(図1)。しかし、利上げは「資産効果」の剥落によって個人消費に下押し圧力をかける。
具体的には、金融緩和にも支えられた投資マネーは、感染拡大後の回復局面で、米国株式や新興国債券など伝統的な資産に加えて、暗号資産や非代替性トークン(NFT)、プライベートエクイティ(未公開株式)など幅広い領域に流入していた。それらの価格上昇が消費を支える側面もあったが、利上げを契機にマネーが逆流し、資産価格の低下を通じた逆資産効果によって、個人消費に下押し圧力をかける。
設備・住宅投資も抑制
雇用環境の悪化も個人消費の重荷になる。すでにインフレ率が賃金上昇率を上回り、実質的な購買力は損なわれ、消費者マインドが悪化している。ここに、景気減速に伴う雇用環境の悪化、所得の減少が重なると、さらに個人消費を抑制しかねない。これまで繰り延べ需要などで上振れていた分、逆資産効果と雇用・所得環境の悪化によって、個人消費の下振れ幅が大きくなる。
また、利上げは、企業の「資本コスト」(利払いなど資金調達に伴うコスト)の上昇を通じて、設備投資や住宅投資に下押し圧力をかける。米国のこれら非国防資本財(除く航空機)受注や出荷は、これまで感染拡大前のトレンドを上回り、景気回復を後押ししてきた。今後も、供給網の回復やデジタル化、気候変動対策の促進には設備投資が欠かせないが、利上げがこうした設備投資を抑制するという矛盾が生じる。
利上げは、住宅投資の外部環境も変える。ローン金利の上昇などを受けて、過熱する住宅需要が落ち着く可能性があるが、その一方で金融緩和を背景に流入していたマネーが住宅市場から逆流するため、住宅価格の上昇も一服するだろう。その結果、住宅資産の価値低下に加え、すでに住宅ローンを借り入れた人の金利負担感の高まりなどのリスクを伴う。
貿易赤字も拡大へ
輸出入も、為替相場を通じて利上げの影響を受ける。米国は欧州や日本に比べ相対的に金利が高く、海外からの資金流入によってドル高が続いていた。米国の利上げによってさらにドル高が進めば、米国の輸出の押し下げ、輸入…
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週刊エコノミスト
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