日本株は3月にかけ一段の下落余地も、年末に3万円台回復の可能性=馬渕治好
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日本株 3月にかけ一段の下落余地も年末に3万円台回復の可能性=馬渕治好
今後の日本株の動向を展望するうえで、日本発の悪材料はあまり見当たらない。一方、米国では米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和縮小から利上げ、さらには量的引き締め(QT)への流れが注視されている。通常はこうした金融政策は、株価の大きな悪材料とはなりにくい。景気が堅調だからこそ緩和縮小ができるわけで、企業収益の回復が株価を支えるからだ。
しかし、今回の緩和縮小は人手不足による賃金上昇や、エネルギー価格の高騰といった、コスト上昇によるインフレに対応するといった面もある。FRBが労働力やエネルギーの供給を増やせるわけではなく、できることは、抑制された供給以上に需要を減退させインフレを抑え込むことで、これは株価の悪材料になる。
加えて、2021年までの米株高は、金融緩和を大前提としたものだった。個人投資家は信用買いを膨らませ、企業は社債発行で得た資金を自社株買いに充てていた。金融政策の正常化によって、こうした過度の株式買いも正常化し、米株安がまだ一段進むだろう。
これに対し、日本では金融政策の変更はしばらく見込みがたい。日米ともに、足元のコスト上昇型のインフレは家計や企業の購買力を削(そ)ぎ、需要抑制要因ではあるものの、日米で景気への悪影響に差がある。
米国では、企業が「日常的に販売価格を引き上げてきたから」と、コスト増を販売価格にちゅうちょなく転嫁し、企業収益を防衛する。家計は「値上がりが続きそうだから、今のうちに買おう」という傾向がある。手元の現金が不足していても、「これまで賃金が上がってきたのだから、クレジットカードやローンで購入しても、将来の所得増で容易に返済できるだろう」と考える。
「利上げすらできない」
しかし日本では、企業は価格を引き上げれば売れ行きが落ちると懸念する。日銀短観では、企業の販売価格と仕入れ価格についての判断を示す二つのDI(指数)がある。その差に着目すると、例えばリーマン・ショック前の08年6月は両DIともに上昇したが、仕入れ価格判断DI上昇の割に販売価格判断DIは上がっておらず、両者の差が低下している(図1)。このことからも日本企業がコスト増を完全には価格転嫁できない姿勢がうかがえる。
足元でもコスト増に対して販売価格引き上げが十分ではなく、「企業努力」で吸収しようとの構えで、企業収益が圧迫されかねない。その「企業努力」には、従業員の賃金を「わが社の事業環境が厳しいのだから、我慢してくれ」と抑え込むことも含まれており、家計所得も抑制されうる。
そして家計は、大幅な賃金上昇が長期間見込みがたいため、企業が最終的に価格引き上げを余儀なくされると、「値上がりが続きそうだから、節約に努め、購入を大いに削減しよう」との心理にとらわれやすい。日本の方が、コストの上昇が景気悪化につながりやすいわけだ。
したがって、米国のみならず欧州においても、インフレ対応のための金融正常化が進むのに対して、日銀は動きが取れない。それが海外投資家の目には「利上げすらできない日本」と映り、日本株…
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週刊エコノミスト
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