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《戦時経済》【ウクライナ侵攻】原油高騰で世界が直面するインフレと経済停滞=武田淳
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世界経済 エネルギー高騰でインフレ持続 成長率は3%台後半まで減速=武田淳
ロシアのウクライナ侵攻に対する主要先進国の制裁は、ロシアからの投資資金引き揚げとロシアの貿易取引縮小という二つの経路で、ロシア経済に著しいダメージを与える。そして、制裁をする側も、対露債権の不良化や対露輸出の減少、ロシアが大きなシェアを占めるエネルギー資源や食糧の調達難と価格高騰という形で返り血を浴びる。
英国BP社の統計によると、エネルギー資源におけるロシアの生産シェア(2020年)は、原油13・3%、天然ガス16・6%、石炭5・2%である。そして、輸出市場のシェアは、原油が12・3%で世界2位、天然ガス(パイプライン経由とLNG〈液化天然ガス〉の合計)は19・1%(1位)、石炭も17・8%(3位)といずれもトップ3に入り、世界の化石燃料供給大国といえる。
こうしたロシアに対し、主要先進国は一部銀行に対する取引停止や資産凍結のほか、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行を除外する金融制裁を決めた。ただ、ロシアへのエネルギー依存度が高い欧州に配慮し、一部の銀行はSWIFTの排除対象に含めなかった。
また、米国はロシアからの原油輸入を即日禁止することを決め、英国も今年末までにロシアからの輸入を完全に停止するとしたが、米国のロシアからの原油輸入量(20年)は日量5・6万バレル、英国でも6・3万バレルと小さく、合計してもロシアの原油輸出全体の2・5%に過ぎない。世界の原油相場にもロシアにも、与える影響は限定的であろう。
本丸はEU(欧州連合)の脱ロシアである。EUによるロシアからの原油輸入は日量234万バレル、ロシアの原油輸出全体の48・7%をも占める。この規模となると代替調達先の速やかな確保は困難であり、どれくらいのペースでロシア依存度を下げるのか、その受け皿はあるのかどうかが、原油相場を見通すうえで重要となる。
原油は120ドルで推移
米エネルギー情報局(EIA)が3月8日に発表した「短期エネルギー見通し」によると、米英やEUの輸入抑制でロシアの原油生産が今年6月までに日量100万バレル程度減少した場合、OPECが現在続けている月25万バレルの増産を4カ月分以上前倒しすれば、世界の原油需給は供給不足を回避できることを示した(図)。現時点でOPECが増産を加速するか定かではないが、少なくともEUの脱ロシアをOPECの増産の範囲内で進めれば、原油がさらに急騰する事態は避けられそうである。
ただ、仮にそうなるとしても、当面は供給懸念を払拭(ふっしょく)できず、国際的な原油の指標価格である米ニューヨークWTI原油先物価格は1バレル=120ドルを中心とする高値圏で推移しよう。さらにいえば、ロシア側には原油輸出を停止するというカードがある。ロシアの禁輸が原油相場を急騰させる可能性にも留…
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週刊エコノミスト
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